イスラエルのDairyX Foodsが、精密発酵によるアニマルフリーのカゼインミセル生産に成功
イスラエルのDairyX Foodsが、ミセルの形に自己組織化できるカゼインを作る方法を開発。精密発酵によりアニマルフリーの乳タンパク質を作るという取り組みにおいて、大きな進展を遂げたと発表しました。
再現が困難とされてきたカゼインタンパク質
牛乳では約80%を占める乳タンパク質の一種カゼインはやや特殊な構造をしており、牛乳の中では4種類のカゼインタンパク質が「ミセル」と呼ばれる球状の構造を形成し、カルシウムなどのミネラルと結合しています。
この独自構造のために、カゼインはもう一つの乳タンパク質であるホエイと比べて、再現が難しいとされてきました。
DairyX Foodsの創業者でCEOを務めるArik Ryvkinによると、ミセルは乳製品の重要な特性を担っており、個々のカゼイン分子だけではこれらの特性は十分に得られないとのこと。従って、代替品開発においてはミセル全体を再構成することが不可欠だといいます。
同社は、精密発酵によるカゼイン生産に成功しただけでなく、カゼインをミセルの形状に自己組織化させられる新たな手法を開発。
これにより、安定化剤、乳化剤、増粘剤などの添加物に頼らず、伸びのあるとろけるチーズや、柔らかすぎないクリーミーなヨーグルトといったアニマルフリーの乳製品を実現可能にしました。
従来品同等のコストを実現できる可能性も
DairyX Foodsは、バイオ医薬品や産業用酵素など、5千種類以上の組み換えタンパク質の生産に広く使われているKomagataella phaffii(別名、ピキア酵母)を生産に使用。
精密発酵企業の多くがこの酵母を活用していますが、同社は選んだ理由を「細胞密度が高く、大量のタンパク質を培養液中に直接分泌でき、下流の処理工程を簡素化できるため」と説明しています。
短期間で非常に多いカゼインの収量を得られるよう最適化されており、数年以内に動物性の乳製品より安価で提供できるようになる可能性もあるといいます。
また、新しい原料の使用にあたって、生産設備を適合させることのない点も強み。原料として牛乳をそのまま置き換えられるため、乳製品メーカーは器具や工程を変更することなく導入できます。
2027年に米国で発売を目指す
今後の構想としては、すでにパートナー候補数社と交渉中で、数年間は技術や製品の共同開発に重点を置いた後、本格的な販売を開始する予定。
CEOのRyvkinが語ったところによると、2026年にGRAS(Generally Recognized as Safe)ステータスの出願を行い、2027年に米国で発売するという目標を設定しています。
精密発酵でアニマルフリーのカゼインを生産するその他の企業には、今年初めにGRAS自己認証を取得した米国のNew Cultureや、来年にも製品化が可能と見込んでいるフランスのStanding Ovationなど。
ドイツ企業のFormoは、精密発酵カゼインの開発を進める傍ら、麹菌の伝統発酵により生産した代替チーズの商品化に成功しています。
参考記事:
DairyX is successfully crafting next-gen casein micelles using precision fermentation – AgReads®
Israel’s DairyX Foods Unveils ‘Self-Assembling’ Animal-Free Casein Micelles, Eyes 2027 US Launch
DairyX makes breakthrough advancement in cow-free casein | Food Dive
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