GFIがSCiFi Foodsの細胞株と培地処方を取得、培養肉研究の推進のため公開へ

代替プロテイン業界のシンクタンクThe Good Food Institute(GFI)が、昨年事業停止した米国の培養肉企業SCiFi Foodsから、培養技術の核となる細胞株と培地を取得したと発表しました。
タフツ大学細胞農業センター(TUCCA)と提携してこれらの資源を学術研究・産業研究向けに公開する予定で、培養肉開発におけるコスト削減と期間の短縮が期待されています。
学術機関、次いで企業向けに提供へ
GFIの買収の対象には、SCiFi Foodsが高効率な懸濁培養向けに開発した、8種類のウシ細胞株と2種類の無血清培地処方が含まれます。
これらの材料は、提携したタフツ大学の細胞農業センター(TUCCA)による保管・検証を経た上で、学術機関や産業界の研究者に開放されたオープンアクセスの細胞バンクに収蔵される予定。
細胞株については、まずは学術機関向けの提供、その後産業界への拡大が計画されており、培地処方はすでにオンラインで公開されています。
2019年に設立されたSCiFi Foodsは、累計4,000万ドル(約60億2,000万円)を調達して、大豆タンパク質90%と培養肉10%を配合したハイブリッドバーガーを発表しました。
500リットルのバイオリアクターを用いた商業規模の生産試験も完了していましたが、投資の低迷という逆風にあらがいきれず、昨年6月に操業停止を発表。その後の清算手続きの中でGFIが落札したことにより、今回の技術移転が決まりました。
タフツ大学助教授のAndrew Stoutは、「現在、非常に多くの実験が小規模なシステムで行われているが、結局のところそうした実験からは、大規模なバイオリアクターを用いたプロセスに関して限られた情報しか得られない」と指摘。
「共有可能で拡張性があり、さらには血清を使わないシステムが利用できるようになれば、分野全体の研究の価値と適用可能性が飛躍的に向上するだろう」と指摘しています。
開発コストと時間を削減し、参入障壁の解消に期待
培養肉生産で使える細胞株を一から開発する財政的負担は、スタートアップ企業にとって長年の難題であり、GFIは200万〜1,000万ドルの費用がかかると推定しています。SCiFi Foodsの共同創業者Joshua Marchも、創業後、商業用の細胞株を樹立するのに4年と数千万ドルを費やしたとのこと。
懸濁培養に適合したウシ細胞株が世界中の培養肉研究者に対して提供されるのはこれが初めてだといい、主要な参入障壁の解消に資する動きとなる見込みです。
こうした既存の資源が利用可能になることで、研究者は初期段階の細胞株開発プロセスを省略し、生産プロセスの改良に集中できるように。
GFIの科学技術担当副社長Amanda Hildebrandは、「細胞株と培地を培養肉エコシステムに広く提供することで、研究者や企業は新たなスタートラインに立ち、新製品を市場に投入するというゴールに近づけるだろう」とコメントしました。
GFIが購入したウシ細胞株のうち3つは、ゲノム編集技術CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)による改変で無限に増殖する能力を持たせた後、スケーラブルな単細胞(シングルセル)懸濁液での増殖に適応させたもの。
このうち2つの細胞株はさらに、研究開発段階で挿入された薬剤耐性を持つマーカー遺伝子を除去する改変が施され、食品用途に適したものとなっています。
参考記事:
Bringing Cultivated Meat Inventions to the Public Sphere | Tufts Now
Exclusive: Open-source moment for cultivated meat as GFI releases SCiFi Foods’ cell lines to academia
GFI Acquires SCiFi Foods’ Cell Lines, Joins Tufts to Fast-Track Cultivated Meat Research
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