【シリーズ 未来の食】 第1回 世界で広がりを見せる代替プロテイン、どんな技術や製品がある?

【はじめに】

最終更新日:2024.04.30

1960年代、第二次世界大戦後の人口増加に食料生産が追い付かなくなることが危惧されていた頃、米国のノーマン・ボーローグが背の低くて倒れない丈夫な小麦を品種改良により開発し、穀物の生産性を劇的に向上させました。

この功績は「緑の革命」と呼ばれ、ボーローグは人類を食料危機から救ったとして、1970年にノーベル平和賞を授与されます。

それからすでに半世紀が経ち、地球上の人口は倍増。2022年には80億人を突破し、国連では2059年までに100億人に達すると予測しています。

そしてこの間、肉の消費量は4〜5倍に増加(下図参照)。豊かな人口が増えるに伴い肉の消費も増え、今後の食料確保が世界で共通した喫緊の課題となっています。穀物の生産性向上により人類に与えられたほんの少しの猶予期間は、すでに終わりを迎えつつあるといえるでしょう。

従来の食料源のみに頼っていては拡大する需要を満たせないことが目に見えている中、解決策になり得ると期待されているのが、代替プロテインです。社会課題や健康に対する消費者意識の高まりなどを背景に、今まさに私たちの食卓の姿が変わろうとしています。

この連載では、全9回にわたって代替プロテイン開発の歴史や重要性、今後の課題などについて詳しく、そして分かりやすく解説します。

【シリーズ 未来の食】

第1回 世界で広がりを見せる代替プロテイン、どんな技術や製品がある?
第2回 代替プロテインはなぜ必要?社会に与えるインパクトを解説
第3回 代替プロテイン業界の歩み、誕生から現在に至るまで
第4回 植物性食品 〜日本の家庭でも身近な健康食〜
第5回 細胞培養 〜エシカル&サステナブルな肉を生み出す新技術〜
第6回 培養肉の製品化に向けて、クリアしなければならない課題は?
第7回 培養肉の認可に必要なプロセスは?各国で異なる法規制と申請の流れ
第8回 微生物発酵 〜菌のはたらきを活用する生産手法を深掘り〜
第9回 その他の技術開発動向について(分子農業、昆虫食ほか)

参入プレーヤーが増加し、100兆円規模の成長産業へ


まずはじめに、代替プロテイン(=代替タンパク質)とは、肉や魚、卵、乳製品など従来の動物性タンパク源に代わる、持続可能な方法で作られた食品や食品原料を指す言葉です。

深刻化する気候変動への対応、食料安全保障、そして動物愛護の観点などから、動物性食品に代わる食品を新たに開発する必要性が高まり、近年注目度が増してきました(第2回で詳しく触れます)。

Future Market Insightsによると、2023年の代替プロテイン市場規模は約11兆円。今後、19%の年平均成長率(CAGR)で成長を続け、2033年には63兆円に達すると予測されています。

米国の大手コンサルティングファーム、A.T.カーニーの予測でも大きな成長が見込まれ、2040年には世界の食肉市場のうち35%(約95兆円)を培養肉が、25%(約68兆円)をその他の代替肉が占めるようになる可能性が示されています。

生産手法などの前提条件が各社で異なるため、市場動向にはさまざまな予測が存在しますが、全体としては今後大きく成長するという見方が多い印象です。

代替プロテイン業界に進出する大手企業の動きも活発化し、2019年にはネスレケロッグが、植物性代替肉への本格的な取り組みを開始。本来であれば競合となり得る食肉世界最大手のJBSタイソン・フーズなども、積極的に培養肉企業への出資を行っています。バーガーキングイケアのような大手チェーンが植物性代替肉を導入したことで、街中で目にする機会も増えてきました。

また、新たに事業を立ち上げるスタートアップ企業も、2018年ごろから急増。毎年更新されているカオスマップの推移を見ると、業界全体の加熱具合がよく分かります。はじめのリリース時には50社程度だったものが、事業領域も細分化されていき、現在では数え切れないほどの企業が代替プロテイン開発に従事しています。

2018年1月のカオスマップ

2019年1月のカオスマップ

2023年(最新版)のカオスマップ

社会課題の解決を使命と捉えた各社のエネルギーは凄まじく、さながら開発競争の様相を呈しているといえるでしょう。

代替プロテインを支える3本柱


代替プロテインの普及に向けて活動するNPOのThe Good Food Institute(GFI)では、代替プロテインを「植物ベース」「細胞(培養)ベース」「発酵ベース」の3つのカテゴリーに分類しています。

植物ベース
野菜、豆類、キノコなどを主原料にして、肉の食感や味を再現した食品。大豆が最もよく用いられますが、エンドウ豆やひよこ豆、緑豆などの活用も進んでいます。

細胞(培養)ベース
動物から採取した細胞を、人工的に培養して作られた食品。生産プロセスは異なりますが、できあがった製品は、動物由来のものと生物学的に全く同じ。例えば、牛の筋細胞を培養してできた肉は、正真正銘、本物の牛肉を構成する一部です。

発酵ベース
微生物が発酵することで生成されるタンパク質をベースにした食品。身近な発酵食品に使われていてなじみの深い伝統発酵、高タンパクの微生物を増殖させて食品原料とするバイオマス発酵、遺伝子組み換えを施した微生物に目当ての物質を生産させる精密発酵の、3つのサブカテゴリーに細分化されます。

それぞれの具体的な製法や、カテゴリーを代表する企業・製品などについては、第4回以降で順に触れていきます。

また、その他の技術開発動向として、分子農業3Dバイオプリンティング微細藻類ガス発酵昆虫食について、第9回でまとめて取り上げます。

2025年大阪万博で培養肉の試食が可能?


ここまで、代替プロテイン分野全体の盛り上がりや、多様化する生産技術について紹介してきました。たくさんの企業が競い合い、時には協力しながらスピード感を持って開発を進める、ダイナミックな動きを感じていただけたらと思います。

日本は投資額を見るとごく小規模で、他国に比べて後れを取っていますが、古くから大豆ミートを開発する不二製油グループをはじめ、最近では日本ハム日清食品HD日揮HDなどが続々と培養肉事業に参入。独自技術を開発するスタートアップ企業も複数誕生しています。

昆虫食についても議論が進み、無印良品から「コオロギせんべい」が発売されるなど、コオロギパウダーを使った製品展開の動きが身近に見られます。

2023年には、大阪大学と参画企業4社(島津製作所、伊藤ハム米久HD、TOPPAN、シグマクシス)により、「培養肉未来創造コンソーシアム」が設立されました。2025年に開催される大阪・関西万博で、和牛の培養肉を3Dプリントする装置の展示を予定。来場者への試食提供も検討しているといい、一般の私たちにもようやく培養肉を試せるチャンスが巡ってくるかもしれません。

では、そんな代替プロテインがこれほどの勢いで広がりを見せているのは一体なぜでしょうか?次回は、代替プロテインが社会にもたらすと期待される、大きなメリットについて解説します。

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