【シリーズ 未来の食】 第4回 植物性食品 〜日本の家庭でも身近な健康食〜
【シリーズ 未来の食】
最終更新日:2024.08.09
第1回 世界で広がりを見せる代替プロテイン、どんな技術や製品がある?
第2回 代替プロテインはなぜ必要?社会に与えるインパクトを解説
第3回 代替プロテイン業界の歩み、誕生から現在に至るまで
第4回 植物性食品 〜日本の家庭でも身近な健康食〜
第5回 細胞培養 〜エシカル&サステナブルな肉を生み出す新技術〜
第6回 培養肉の製品化に向けて、クリアしなければならない課題は?
第7回 培養肉の認可に必要なプロセスは?各国で異なる法規制と申請の流れ
第8回 微生物発酵 〜菌のはたらきを活用する生産手法を深掘り〜
第9回 その他の技術開発動向について(分子農業、昆虫食ほか)
植物性食品は若い世代のスタンダードに?
近ごろ、日本のスーパーでも豆乳の品揃えが牛乳と変わらないほど多くなり、時には牛乳以上のスペースが割かれて並んでいる光景を目にするようになりました。コンビニでも大豆ミートや代替卵を使ったサンドイッチが手に入るようになったりと、植物性の代替食がより身近な存在になってきているのを強く感じます。
そもそも日本は、古来から植物性食品になじみの深い国でした。醤油や味噌に使われる大豆は和食に欠かせない食材であり、日本人の食用としての大豆消費量は数年前までカロリーベースで世界一。食肉の消費量も少なく、米国の1人1日あたり348gに対して、日本は半分以下の同157g(下図参照)しかありません。
自身を「ベジタリアン」と称する人の数こそ少ないものの、欧米諸国と比べると、国全体がややベジタリアン寄りの生活をしているといえるでしょう。
さらに、新型コロナ禍で家で過ごす時間が増えたことをきっかけに、日々の食事や栄養に気を配る人が増加。これに伴い、植物性食品が選ばれる機会がますます増えてきています。
日本政策金融公庫が実施した消費者動向調査(2021年7月)では、食に関する志向で「健康」を挙げた人が45.4%。インフレの影響を受けて直近(2023年1月)では39.8%と低下傾向にありますが、それでも「経済性」や「簡便性」を上回る割合を維持しています。
世界に目を向けても、欧米では若い世代を中心に植物性食品がブームを巻き起こしています。米国では、アーティストのビヨンセがレシピ提案アプリを配信するなど、著名人がヴィーガンのライフスタイルを積極的に発信していることもあってか、Z世代を中心にヴィーガンがクールなものとしてトレンドに。
また、ミレニアル世代(1981年〜1996年の間に生まれた世代)では、ヴィーガンではないものの、積極的に肉の消費を控えて植物性食品を多めに取る「フレキシタリアン」と呼ばれる人々が増加しています。米国は世界一の肉食大国でありながらも、フレキシタリアンがミレニアル世代の半数近く(47%)を占めるという統計もあり、状況が変わりつつある様子が見てとれます。
大企業とのコラボレーションによる展開も
2020年、米国のマクドナルドが植物性代替肉のパイオニア企業Beyond Meatとの提携により、同社の植物性パティを採用したハンバーガー「McPlant」を発売。
これ以前にも、サブウェイやバーガーキングといったほかのファストフードチェーンが代替肉を用いたヴィーガンメニューを発売していましたが、その中でもマクドナルドの参入は一際大きな動きとなりました。
日本の大企業の植物性食品への取り組みとしては、不二製油グループが早くから大豆の利用に着目し、創業間もない1957年に研究を開始。1969年には大豆ミートの素材となるタンパク質を発売し、B2B向けに原料として提供しています。
また、パソナグループやカゴメと15社共同で「Plant Based Lifestyle Lab」を立ち上げ、植物性食品の認知度向上の取り組みや、セミナー開催などを行っています。
2023年2月には、森永乳業がTurtle Island Foodsを買収・子会社化するというニュースもありました。この米国企業は、小麦や豆腐をベースにした、全米で高い認知度を誇る代替肉ブランド「Tofurky」を保有。森永は以前から、米国で現地生産した豆腐の展開に力を入れており、相乗効果を見込んでの投資判断でした。
「本物」により近づける開発競争
植物性代替肉を開発する2大企業に、米国のBeyond MeatとImpossible Foodsがあります。両社とも2010年前後に設立され、米国を中心としたグローバル展開を進めてきました。
Beyond Meatの製品は、アレルギーの原因となる大豆を使用せず、エンドウ豆と米を主原料としているところが特徴。脂肪分としてのココナッツオイルや、つなぎの役割を果たすポテトスターチなどを添加して肉の食感に近づけ、赤味の演出にはビーツの色素を使用しています。
もう一つの植物性代替肉大手、Impossible Foodsでは、大豆とジャガイモをベースにパティを構成。そして、同社の製品において最も重要なのが、「ヘム」という化合物を添加する技術です。
ヘムとは、あらゆる動植物の細胞に含まれ、ヘモグロビンやミオグロビンなどのタンパク質を構成する分子。Impossible Foodsは、このヘムこそが肉に特有の風味や食感を生み出していることを突き止めました。
そして、動物由来のヘムと似た性質を持つ植物成分を探索した結果、大豆の根粒に含まれる大豆レグヘモグロビンに着目。遺伝子改変した酵母を用いる精密発酵(第8回で詳しく解説)の技術を活用して、大豆レグヘモグロビンに含まれるヘムの大量生産に成功しています。
ヘムは風味付けだけでなく、ピンク色に発色しパティから滴る肉汁を演出します。この技術により、同社の「Impossible Burger」は代替肉の中で最も本物に近いといわれていますが、このヘムの使用が認められているのは、現在のところ米国を含む数カ国のみ。
生産過程で遺伝子組み換え技術を用いるため、遺伝子組み換え食品を強く規制する欧州などでの展開が難しくなっています。この点では、遺伝子組み換えを行わないBeyond Meatに分があり、海外展開において先行しています。
代表的なスタートアップ企業&製品まとめ
植物性食品を手掛ける代表的なスタートアップ企業と製品を、以下にまとめました。
企業名 | 国名 | 設立年 | 代表的な製品 |
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Beyond Meat ▶︎ | 🇺🇸 米国 | 2009 | 植物性パティ「Beyond Burger」 |
2019年に関連企業として初の米NASDAQ上場を果たす
エンドウ豆タンパク質をベースに使用
米マクドナルドやKFC、中東のスターバックス店舗などで採用され、Whole Foods Marketでも展開
欧州やアジアを含む、世界85カ国以上に製品を輸出
Impossible Foods ▶︎ | 🇺🇸 米国 | 2011 | 植物性パティ「Impossible Burger」 |
大豆タンパク質をベースに、精密発酵により生成した「ヘム」を加えて肉らしい風味を再現
ハラール認証・コーシャ認証取得、ヘムは米FDA GRAS認証取得
米国内のスターバックスやバーガーキングの店舗でも採用
Eat Just ▶︎ | 🇺🇸 米国 | 2011 | 代替卵「JUST Egg」 |
緑豆から抽出したタンパク質をベースに使用
機械学習アルゴリズムにより植物から抽出したタンパク質の分子特性や機能をデータベース化、目標とする動物原料に近い素材を自動探索し、自在に置き換える技術が強み
2016年に子会社としてGOOD Meatを立ち上げ、培養肉開発に本格参入
Oatly ▶︎ | 🇸🇪 スウェーデン | 1994 | オーツミルク、ヨーグルト「Oatgurt」 |
EUでは代替乳製品のパッケージに「ミルク」の用語を使えないため、「Oat Drink」の名称で商品化
欧州の小売りでは市場シェアを独占、米国やアジアにも進出し2021年にNASDAQに上場
TiNDLE Foods ▶︎ | 🇸🇬シンガポール | 2020 | 植物性チキン「TiNDLE」シリーズ |
Fast Companyが選ぶ、2023年のアジア太平洋地域で最も革新的な企業10社に選出
米国、英国、ドイツの小売り・外食市場に進出
Juicy Marbles ▶︎ | 🇸🇮 スロベニア | 2019 | 植物性ステーキ「THICK-CUT FILET」 |
大豆タンパク質を繊維状にして重ねる技術でホールカット肉を製造
2021年に世界初の植物性霜降りステーキ、2023年に骨まで食べられるスペアリブを発表
英国の大手スーパーでの販売では、動物性ステーキを下回る価格を実現
Redefine Meat ▶︎ | 🇮🇱イスラエル | 2018 | 植物性パティ「Redefine Burger」、「Pulled Beef」 |
植物性のステーキ肉を3Dプリントし、2022年に欧州のレストランで提供開始
英国のネットスーパーOcadoを通じて小売業にも参入
ChickP ▶︎ | 🇮🇱イスラエル | 2016 | プロテインパウダー、代替チーズ |
優れたゲル化・乳化特性を持つひよこ豆をベースに使用し、増粘安定剤に頼らずチーズの溶けや伸びを再現
DAIZ ▶︎ | 🇯🇵日本 | 2015 | 植物性代替肉「ミラクルミート」、代替卵「ミラクルエッグ」 |
大豆の新しい栽培手法を開発し、代替肉の味を改善
セブン‐イレブンの2023年新商品「みらいデリ」シリーズを共同開発
ネクストミーツ ▶︎ | 🇯🇵日本 | 2020 | 冷凍食品「NEXT EATS」シリーズ |
植物性代替肉を用いた調理加工食品を開発し、創業から7カ月で米国でSPAC上場を果たす
インフレで苦境が続くも、長期的には成長見込み
新型コロナ収束後、世界的な物価高騰が加速しました。これに伴い、消費者が生活コストを抑えようとする動きが強まったことで、やや割高な植物性食品の売り上げが減少しています。
足元では業界全体で成長が鈍化しており、企業の中には人員削減や事業停止を余儀なくされるケースも見られるように。しかしながら、この落ち込みはあくまで一時的なものとみられ、全体としては今後の市場成長を予測する見方が大勢を占めています。
The Good Food Instituteでは、現在の成長速度を維持できれば、2030年には世界の肉類市場の約6%を植物性代替肉が占めるようになると予測。EUでは普及を広げるための取り組みとして、植物性食品に対する税率の引き下げや、動物性食品に対する税率を高めた食肉税の導入なども検討されている様子です。
すでに一般的な食材を原料として活用する植物性食品は、規制に縛られず市場投入が容易なため参入する企業も多く、今後より一層の成長が期待されます。
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