【シリーズ 未来の食】 第3回 代替プロテイン業界の歩み、誕生から現在に至るまで
【シリーズ 未来の食】
最終更新日:2024.10.01
第1回 世界で広がりを見せる代替プロテイン、どんな技術や製品がある?
第2回 代替プロテインはなぜ必要?社会に与えるインパクトを解説
第3回 代替プロテイン業界の歩み、誕生から現在に至るまで
第4回 植物性食品 〜日本の家庭でも身近な健康食〜
第5回 細胞培養 〜エシカル&サステナブルな肉を生み出す新技術〜
第6回 培養肉の製品化に向けて、クリアしなければならない課題は?
第7回 培養肉の認可に必要なプロセスは?各国で異なる法規制と申請の流れ
第8回 微生物発酵 〜菌のはたらきを活用する生産手法を深掘り〜
第9回 その他の技術開発動向について(分子農業、昆虫食ほか)
これまで第1回・第2回で代替プロテインの世界を概観してきましたが、その歴史の中でも特筆すべき出来事を、年表形式でまとめました。
代替プロテイン関連年表
1998. 🇳🇱オランダ人研究者ウィレム・ファン・エーレンが、世界初となる培養肉生産の基礎的手法に係る特許を取得(2017年にHampton Creek:現Eat Justが買い取り)
2002. 🇺🇸ニューヨークにあるトゥーロ大学の研究チームが、NASAの資金提供を受け、単離した金魚の筋細胞の体外培養に成功
2003. 🇫🇷バイオアートを制作するアーティストのオロン・カッツらが、フランスで開催された美術展で、試験管内で培養したカエルの脚の筋肉を観客に振る舞う
2004. 🇺🇸米国のジェイソン・マシーニが、培養肉の普及を推進する初の研究機関「New Harvest」を設立
2005. 🇺🇸ジェイソン・マシーニが培養肉の生産方法を解説した初の科学論文が、医学雑誌『組織工学』に掲載される
🇳🇱オランダ政府が培養肉の基礎研究に対して200万ユーロを拠出
マーストリヒト大学のマーク・ポストも研究グループに参加、『ニューヨーク・タイムズ』誌や『ディスカバー』誌で新技術として紹介され話題に
2008. 🇳🇴ノルウェーで培養肉に関する初の協議会「In-Vitro Meat Symposium」開催
2009. 🇳🇱マーク・ポストがマウスの筋肉の試験管内培養に成功
🇺🇸イーサン・ブラウンが植物性代替肉を手掛けるBeyond Meatを創業
2011. 🇺🇸アンドラス・フォーガッシュがModern Meadowを設立、研究室で食肉とレザーを培養する初のスタートアップ企業に
🇸🇪スウェーデンで開かれた会議の場で、「試験管ミート(in-vitro meat)」に代わって「培養肉(cultured meat)」の名称が正式に採用される
🇺🇸パトリック・ブラウンが植物性代替肉を手掛けるImpossible Foodsを創業
2013. 🇳🇱x🇬🇧マーク・ポストらがGoogle共同創業者セルゲイ・ブリンの資金提供を得て、世界初となる培養ハンバーグを発表(生産コスト:33万ドル/140g)
ロンドンでメディア向け試食会を行い、「World Technology Award」など多数の賞を受賞する
🇯🇵スパイバーが世界で初めて合成クモ糸素材「QMONOS」の量産化に成功
2014. 🇳🇱細胞農業によって実現されるかもしれない想像上のレシピを集めた、『The In Vitro Meat Cookbook』が出版される
🇺🇸×🇭🇰Modern Meadowが、香港を拠点とするベンチャーキャピタルのHorizons Venturesから1,000万ドルを調達、細胞農業界で初の大規模調達に成功
🇺🇸イーシャ・ダタールらが、精密発酵のパイオニア企業Perfect Dayを創業
🇯🇵培養肉の実用化を目指す同人サークル「Shojinmeat Project」発足
2015. 🇺🇸代替プロテインの普及を推進する非営利団体「The Good Food Institute (GFI)」設立
🇳🇱「国際培養肉会議(International Conference of Cultured Meat)」がオランダで初開催(以降毎年開催)
🇺🇸ウマ・バレティらが世界初の培養肉企業Memphis Meats(現:UPSIDE Foods)を設立、サンフランシスコで培養肉の公式試食会を開催
2016. 🇺🇸Beyond Meatが植物性代替肉のパティ「Beyond Burger」発売
🇺🇸Memphis Meatsが培養ミートボールを発表(生産コスト:1,200ドル=キロ単価4万ドル)
🇳🇱マーク・ポストがMosa Meatを共同で創業
🇺🇳WHOがソーセージやハムなどの加工肉を、グループ1の発がん物質(タバコと同じ)に分類
🇺🇸FDAの規則改正により、自社製品の原料がGRASに分類されるかの初期判定を、企業が自社で実施可能に
🇺🇸GFIが行った消費者アンケートで、培養肉を指す名称として「クリーンミート」が選ばれる
2017. 🇺🇸米国で「Cellular Agriculture Society(CAS:細胞農業協会)」設立
🇺🇸Memphis Meatsが、アニマルフリーの合成血清を用いる細胞培養手法を発表
🇺🇸Geltorが精密発酵によるゼラチンをB2B向けに製品化
🇺🇸ビル・ゲイツが培養肉セクターへの投資を開始
🇺🇸カーギルが食肉を扱う企業として初めて、培養肉関連のスタートアップ(Memphis Meats)への投資を発表、同時期にタイソン・フーズも培養肉に関心を示す
2018. 🌏初めて代替プロテイン業界のカオスマップが作られる、スタートアップ企業の参入が急増
🇺🇸GFIとCASが、スタンフォード大学で培養肉に関する初の講座を開講
🇯🇵インテグリカルチャーが日本初の培養肉スタートアップとして設立
2019. 1月 🇺🇸CES2019に初参加したImpossible Foodsの「Impossible Burger」が注目を集める、小売店などでB2C提供を開始
3月 🇺🇸Beyond MeatがNASDAQに上場、2019年で最も成功したIPO(株式公開)に
🇯🇵日清食品と東京大学の研究チームが、牛の筋細胞を用いてサイコロステーキ状の立体筋組織の作製に成功
7月 🇺🇸Perfect Dayが、精密発酵乳タンパク質を用いた初の製品(アイスクリーム)を発売
10月 🇮🇱イスラエルのAleph Farmsが、国際宇宙ステーション(ISS)で培養肉の3Dプリント生産に成功
🇯🇵NPO法人「日本細胞農業協会(CAIC)」設立
2020. 3月 🇺🇸Perfect Dayが、精密発酵によるβ-ラクトグロブリンのFDA GRAS認証を取得
11月 🇺🇸米マクドナルドがBeyond Meatの植物性パティを用いたハンバーガー「McPlant」を発表
🇮🇱SuperMeatが、培養肉の試食が行えるレストラン「The Chicken」をテルアビブにオープン
12月 🇸🇬×🇺🇸シンガポールで初の培養肉販売認可、米GOOD Meat(Eat Justの培養肉部門)が培養鶏肉を発売
2021. 3月 🇮🇱x🇺🇸イスラエルのMeaTech 3D(現:Steakholder Foods)が、培養肉企業として初めて米NASDAQに上場
🇨🇳中国政府が、培養肉と未来の食の項目を盛り込んだ「第14次五カ年計画(2021〜2025)」策定
11月 🇧🇷ブラジルに本社を置く世界最大の食肉加工会社JBSが、培養肉市場に本格参入
🇺🇸スターバックスがPerfect Dayの精密発酵ミルクを試験導入
2022. 4月 🇳🇱オランダ政府が、細胞農業に対する6,000万ユーロの助成金拠出を発表
🇿🇦アフリカ初の培養肉企業Mzansi Meat(現:Newform Foods)が、培養ビーフバーガーの生産に成功
6月 🇯🇵自民党の有志議員で「細胞農業によるサステナブル社会推進議員連盟」設立
9月 🇦🇺オーストラリアのMagic Valleyが動物血清不使用の培養ラム肉を発表
11月 🇺🇸UPSIDE Foodsが米国食品医薬品局(FDA)からの安全性認可を取得
🇮🇳×🇺🇸Perfect Dayがインドで乳清タンパク質の販売認可を取得
2023. 2月 🇯🇵農林水産省が培養肉にも言及した「フードテック推進ビジョン」を発表
🇯🇵インテグリカルチャーが血清などの成長因子を一切使わない培養フォアグラの生産に成功
3月 🇺🇸GOOD Meatが米国食品医薬品局(FDA)からの安全性認可を取得
4月 🇬🇧英国政府の大規模投資による細胞農業製造ハブ「CARMA」設立
🇮🇱×🇸🇬Steakholder FoodsとUmami Bioworksが、3Dバイオプリンティングによる培養シーフードを発表
6月 🇺🇸GOOD MeatとUPSIDE Foodsが米国農務省(USDA)の規制をクリア、翌月より米国のレストランで培養肉の提供を開始
9月 🇪🇺欧州議会の農業委員会が、EU域内で植物性タンパク質の生産を増加させる戦略の実施を決議
🇦🇹Revo Foodsがスーパーで手に入る初の3Dプリント食品を発売(菌糸体ベースのサーモンフィレ)
🇮🇱SuperMeatの培養鶏肉がユダヤ教のコーシャ認証を取得
10月 🇩🇰🇰🇷デンマークと韓国の政府が、植物性食品を推進する国家行動計画を相次いで策定
11月 🌏世界初の代替シーフード協会「Future Ocean Foods」設立
2024. 1月 🇮🇱Aleph Farmsがイスラエルで培養牛肉の安全性認可を取得
2月 🇸🇬シンガポール・イスラム評議会が、培養肉をハラールとみなすためのガイドラインを策定
4月 🇸🇬x🇦🇺Vowがシンガポールで培養ウズラ製品の販売認可を取得、レストランで提供開始
5月 🇸🇬x🇺🇸GOOD Meatがシンガポールで培養肉の小売り販売を開始、消費者が家庭で調理できる初の製品に
🇺🇸ジェフ・ベゾスのアース・ファンドが6,000万ドルを投じて代替プロテインの研究センターを設置すると発表、以降年内に3カ所を設置
7月 🇬🇧Meatlyが英国で培養ペットフードの販売認可を取得
🇫🇷パリオリンピックで提供される食事のメインが植物性食品に
9月 🇯🇵GFIが日本支部を開設
業界の歩みはまだ始まったばかり
細胞培養の技術に関しては、医療分野での研究が先行し、徐々に培養肉生産への応用が進んできたものの、まだ食品生産用途に最適化されたとはいえない状況です。そのため、植物性食品が先に市場に浸透し、これまで代替プロテイン業界をリードしてきました。
しかしながら、2020年末にシンガポール、2023年6月に米国、2024年に入ってイスラエルと培養肉の販売を解禁する国も増えてきており、各企業の開発や投資の動向もいよいよ本格化してきた感があります。
次回以降は、代替プロテインを支える3本柱(植物ベース・培養ベース・発酵ベース)について順に取り上げ、それぞれの製法や市場を取り巻く現状、今後の普及に向けた課題などについて解説していきます。
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