EUが2024年に精密発酵と藻類利用の拡大に向け、スタートアップ企業に約78.5億円の拠出を決定

欧州連合(EU)が、欧州イノベーション会議(EIC)の「Work Programme 2024」を通じて、精密発酵と藻類ベースの食品開発に取り組むスタートアップ企業や中小企業に対し総額5,000万ユーロ(約78億5,000万円)の資金援助を行うことを決定しました。

精密発酵と藻類セクターに注目


EUが推し進める研究開発支援プログラム「Horizon Europe」の一環として行われるこの資金援助は、欧州においてボトルネックとなっている課題やインフラ不足を克服するため、企業のスケールアップを支援することに重点を置いたもの。来年3月に支援対象企業の募集が開始されます。

これまでにも、伝統発酵を含む、より広範な代替プロテイン関連プロジェクトへの資金拠出を行ってきたEUですが、精密発酵や藻類セクターに直接資金を提供するのは今回が初となります。

EUは、菌類や藻類を用いて生産した食品の栄養価の高さ食料安全保障への寄与環境影響の小ささに注目。

高付加価値作物の代わりに農業の副産物を精密発酵に利用して、ヒトの食料や家畜の飼料を生産できると指摘し、そのメリットとして、生産が容易であること、気候条件に左右されないこと、土地や水など天然資源の利用を減らせること、農薬や抗生物質の使用に伴うリスクを減らせることなどを挙げています。

資金提供の対象となる企業は、微生物や汚染物質が排水とともに放出されてしまわないような生産工程を築くことが必須。環境・社会・経済的側面を分析するライフサイクルアセスメントを実施し、結果を提出しなければなりません。

さらに、規制認可や消費者の受容を巡る問題について検討し、EU内外での市場参入に向けた適切な戦略を明示することが求められます。

発酵分野への資金流入割合は今年に入って急増


今回の資金拠出は前向きなニュースですが、EUの食肉生産者や酪農家にはその1,200倍もの公的資金注入があり、畜牛農家は直接補助金で収入の半分を得ているといいます。

GFI EuropeのAcacia Smithは、「ここ数年で投資は増加したが、まだ微々たるもの。今回のような助成金は、生産規模の拡大とコスト低下に資する大きな違いをもたらすだろう。精密発酵のような食品が将来もたらす莫大な利益を逃さないためには、欧州はこの投資意欲を継続させる必要がある」とコメントしています。

The Good Food Institute(GFI)によると、発酵分野の資金調達総額は昨年8億4,200万ドル(約1,200億円)。植物ベース、細胞(培養)ベースに比べて小規模にとどまっていました。

2023年は2億7,300万ドル(約389億円)と金額では減少したものの、今年は全体的に投資が低迷したため、これでも植物ベースの2倍以上、細胞(培養)ベースの3倍近く上回る金額となっています。

国レベルでの足並みが揃わない欧州


新しい食品技術に対してはやや懐疑的な姿勢で、安全性審査などにも一段と時間をかける欧州。代替プロテインについても、米国やシンガポールと比べると後れを取っている感は否めず、今後の進展が期待されます。

精密発酵を手掛けるBetter DairyFormoImagindairyOnego BioThose Vegan Cowboysの5社は、今年3月に企業連合「Food Fermentation Europe」を立ち上げ、共同で規制当局への働きかけを開始。

欧州食品安全機関(EFSA)が5月に開催した「Scientific Colloquium 27(第27回EFSA科学会議)」で、初めて細胞性食品に焦点が当てられたことは、欧州で代替プロテインへの関心が高まってきたことを示しているといえるでしょう。

ただし、各国の動きに目を移すと、ドイツで代替プロテインの推進に記録的な連邦予算が計上される一方、フランスやイタリアでは培養肉禁止法案が提出されたりと、国レベルでは足並みが揃っていないのが現状。

そんな中、国内の一時的な政治動向に左右されない、EU全体での代替プロテイン推進に向けた動きは、大きな意味を持つとみられます。

参考記事:EU to invest €50m in supporting precision fermentation start-ups

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