代替肉・乳製品へのシフトにより、温室効果ガス排出は大幅に削減可能 —国連環境計画(UNEP)レポート

2023年11月30日〜12月12日にドバイで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28の期間中に、国連環境計画(以下、UNEP)が新たなレポートを発表。

従来の畜産から代替プロテインへと移行することにより、温室効果ガス排出や森林破壊、水質・土壌汚染、生物多様性の損失、感染症のリスクを大幅に削減できると明言しています。

動物性食品に代わる代替プロテインの可能性を強調


畜産が地球に与える悪影響に関する報告においては、長年にわたって慎重な表現がなされ、時には畜産ロビーからの圧力により検閲さえ行われてきたという報道もありますが、国連はついに確固たる姿勢を打ち出しました。

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催されたCOP28の中でも、特に「食料・農業・水」がテーマとされた12月10日に合わせて、UNEPが『Frontiers』レポートを発行。

ベルギー政府の支援を受けて作成された本レポートでは、畜産業がいかに人為的な気候変動、広範な水質・大気汚染、土壌の栄養分の喪失、陸上・淡水・沿岸の生物多様性の喪失を招いているかについて言及されました。

また、既存の食肉生産は政府の政策と補助金によって支えられていること、そして食肉消費が心血管疾患、2型糖尿病、人獣共通感染症などの健康問題と関連していることを指摘しています。

にもかかわらず、とりわけ低・中所得国が肉を中心とした食生活に移行することで、肉の消費量は2050年までに50%増加すると予測。

こうした問題に対処する方法として、植物ベース細胞(培養)ベース発酵ベースを中心とした代替プロテイン製品の採用は、人類と地球の健康の両方に多大な利益をもたらすことができると強調しました。

UNEPのInger Andersen事務局長は、「人類が地球環境に与えているダメージを食い止め、回復させるためには、食肉・酪農部門を含むフードシステムが社会的・経済的変革の一翼を担わなければならないことは明らかだ」と述べています。

具体的な政策を提言、「公正な移行」も鍵に


本レポートではまた、より多くの政府による支援が、これら新技術の可能性を解き放つ助けになるとし、代替プロテインへの移行に向けたいくつかの政策提言がなされています。

そのうちの一つが、国家主導での研究を進め、その研究結果をオープンアクセスで共有すること。優先すべき研究の例として、より高いタンパク質収量が得られる作物の育種、植物性代替肉の食感を改良する新手法の開発、細胞培養を行う大型バイオリアクターの構築などが挙げられています。

そのほかにも、補助金や税制優遇措置によって、企業の生産インフラ構築や製品化を支援すること、高い安全基準を確保しながらも効率の良い規制認可プロセスを検討すること、明確な表示基準を策定すること、科学的データなどの情報公開や質問への回答によって消費者教育を行うことなどについて、具体的な解決策が示されました。

加えて、持続可能なフードシステムへの移行に際してしばしば問題とされる、従来の農業や畜産に携わる人々への影響についても触れられています。

このような移行は、農村地域社会を犠牲にして、都市経済により有利に働く可能性があり、それに伴う混乱を緩和するためには、より強固なセーフティネットを導入することを政策目標とするべきと主張。

経済的損失に直面する農家や土地所有者には、必要に応じた支援を行った後に、段階的に廃止していく措置を取るなど、「公正な移行」が鍵になると結論づけています。

持続可能なフードシステム構築に向けた一歩


米国、ドイツ、オランダ、イスラエル、オーストラリア、ブラジル、中国、デンマーク、インドなどの各国政府は、代替プロテイン分野の研究への投資や、生産者への免税、補助金支給などの取り組みを行っています。

しかしながら昨年は、畜産や酪農業界のロビー団体が、植物性食品への「肉」や「ミルク」の表示を阻止しようとした動きも多く見られ、イタリアでは培養肉の生産・販売を禁止する法律も承認されました。

今後、世界規模での持続可能なフードシステムの構築に向けて各国の足並みを揃えるためにも、信頼のおける科学的データに基づく国連機関の提言が出されたことは、大きな意味があるといえるでしょう。

参考記事:
Landmark UN Report: Meat & Dairy Alternatives Can Significantly Cut Greenhouse Gas Emissions
Meat alternatives could feed humans more sustainably

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