植物性代替肉の表示論争が続くEU、議会で合意に至らず決定は2026年に持ち越し

欧州連合(EU)で植物性代替肉製品の表示規制を巡る論争が加熱しています。欧州議会と27の加盟国による集中協議がベルギー・ブリュッセルで行われていましたが、最終合意には至らず、交渉は2026年まで延期となりました。
反対運動に約34万件の署名が集まる
この法案は、中道右派の欧州人民党(EPP)に所属するフランス人議員のCéline Imartによって提出されました。検討されている禁止措置とは、植物由来製品の表示に食肉を連想させる29の用語(ステーキ、ベーコン、ソーセージなど)の使用を禁ずるもの。
「plant-based steak(植物性ステーキ)」といった表示は消費者の混乱を招くという食肉ロビー団体などの強い主張を受けて、各国の政府レベルでも検討が進められていますが、その主張には疑問も呈されてきました。
多くのEU政策立案者、小売業者、食品メーカー、飲食店、消費者がこの動きに反対の声を上げており、600社以上の企業・団体が連名で公開書簡を発表しています。EUに提案の却下を求める市民の請願には34万件近い署名が集まり、ポール・マッカートニーなどの著名人もこの呼びかけに加わりました*1。
結局、この議論は2025年中の解決を見ず、2026年前半にキプロスがEU議長国を務める期間まで持ち越されることに(議題を取り上げるかどうかは議長国次第なため、交渉がいつ再開されるかは不透明)。禁止措置に反対する団体にとっては、キャンペーンを展開する時間をさらに確保できたことになります。
消費者の混乱を理由に掲げる禁止支持派
植物性代替肉を巡る議論は「ベジバーガー」論争とも呼ばれ、EUで10年近くにわたって続いてきました。2020年にも今回と同様の規制案が出され、否決された過去があります。
昨年には、フランスが独自の法制定に踏み切ったのを受けて、EUの最高裁にあたる欧州司法裁判所(ECJ)が裁定を実施。加盟国がEU全体の規定に反して独自の規制を敷くことは原則認められないとし、消費者へのさらなる混乱を招く恐れがあると警告しました。
今回法案を提出したImartは、「ステーキとは単なる形状を指す言葉ではない」と先月『Politico』誌に語りました。「人類は新石器時代から肉を食べてきた。これらの名称には歴史的遺産が込められており、それは農家のものだ」としています。
禁止支持派が挙げる主な理由の一つは、食肉製品と同等の表示を代替品に許可すると、EU市民が混乱するというもの。しかしながら、この主張は数多くの研究により否定されています。
欧州消費者機構(BEUC)が2020年に実施した大規模調査では、回答者の80%が植物性代替肉製品にこうした表現の使用を認めるべきと回答。2023年に行われた別の調査では、EUに加盟する9カ国の回答者のうち、植物性代替肉を認識していないと答えたのはわずか9%でした。
欧州人民党(EPP)の代表であるManfred Weberまでもが、「スーパーマーケットで商品を購入する消費者は愚かではない」として、この禁止措置は不必要と述べています*2。
農家の処遇改善という真の問題が置き去りに

禁止令が施行された場合、代替肉メーカーにとっては、新たな表示規制への対応として包装材やマーケティングの再設計に多額の費用をかける必要が生じます。
欧州議会議員で欧州緑グループ・欧州自由連盟のメンバーであるAnna Strolenbergは、この禁止措置を「皆の時間の無駄」と批判し、一貫して反対の立場を表明。
この動きに畜産ロビーが与えた影響について、「確かに、起案者のImartと畜産業界の圧力団体とは非常に密接な関係がある。彼らはポピュリスト的な手法でスケープゴートを叩き、業界が直面する真の問題から目をそらさせようとしている」と糾弾しました。
そもそもの表示規制に向けた動きが2023〜24年の農家による抗議活動への対応であった点を強調し、「この一件の真の目的は、より良い契約に向けた交渉が行えるよう、農家の力を強化することだった。価格などの条件を明記した書面契約の義務化によりこれを達成するという本質的な議論が、ベジバーガーの話題にすり替えられているのは残念だ」と訴えています。
今後の懸念点として挙げられるのは、中道左派の社会民主進歩同盟(S&D)が、EPPの提案を支持していること。「S&Dは実質的に反対していないため、残念ながら提案に強い権限を与えてしまっている」とStrolenbergは指摘しています。
参考記事:
PRESS RELEASE | WePlanet
EU Fails to Reach Agreement on ‘Veggie Burger’ Ban, With Decision Pushed to 2026
EU “meaty” label ban talks collapse into prolonged regulatory limbo
*1 Paul McCartney: Don’t let EU ban Linda’s vegetarian ‘sausage’
*2 ‘Veggie burgers’ face grilling in EU parliament


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