炭素排出量にもジェンダーギャップ、女性は男性より26%少ないとの研究結果 —LSEグランサム研究所

気候変動と環境に関する研究を行うロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のグランサム研究所が、食と交通に係るカーボンフットプリントのジェンダーギャップを大規模に分析した新たな論文を発表しました。
肉と車が、男性で多い排出量の要因に
本研究では、フランスに住む2,100人の食品消費と、12,500人の移動パターンに関する調査データを用いています。
結論として、平均的な個人のカーボンフットプリントの半分を占める「食」と「交通」のセクターにおいて、女性の炭素排出量は男性より26%少ないことが分かりました。
男性の食料消費と交通機関の利用は、平均で5.3トンのCO₂e(CO₂換算量)を排出するのに対し、女性の排出量は同3.9トン。
論文では、このギャップは男性のカロリー消費量の多さや、通勤時間の長さだけが原因となって生じているものではないと強調。これらの要素を差し引いても、食に関するカーボンフットプリントの25%、交通では38%が説明のつかないまま残されているといいます。
データが示しているのは、食事量、移動距離、そして雇用形態の違いを考慮した後のカーボンフットプリントの差の大部分は、赤肉の消費と車の使用に起因するということ。研究者らは、この2つが男性によく見られる行動である点に注目しました。
交通機関の利用における男女差は、カップル間においてのみ見られ、特に子供のいるカップルにおいて顕著でした。一方、食料消費における男女差は成人世帯では小さく、これは、同じ食事を共有していることや女性がパートナーに合わせていることにより、性別ごとの食事傾向の違いの表出が抑えられている可能性が考えられます。
分析では2つのセクターのみが考慮されましたが、著者らは全セクターを考慮に入れた場合、男女差を相殺するためには男性の他セクターからの排出量が80%以上少なくなる必要があり、その見込みは非常に低いと述べています。
同種の研究は以前にもあり、2021年にスウェーデンで行われた研究では、男女の支出額がほぼ同じであるにもかかわらず、男性は肉と車に支出していることで、女性に比べて排出量が16%多くなっているとの結果が出ていました。
誤情報に対抗する植物性代替肉の捉え直しが必要
植物ベースの食生活を実践するにあたって、男女の間で不均衡があることはよく知られており、女性は男性よりヴィーガンになる割合がずっと高くなっています。
2023年に発表されたVegan Societyのレポートによると、男性が肉食を控えようとする場合、社会的偏見、男性らしくなければならないというプレッシャー、栄養に関する誤った情報といった障壁に直面するとのこと。
英国の環境チャリティ団体Hubbubの調査では、16~24歳の英国人男性は、肉の摂取量が前年に比べ増加傾向にある割合がほかの年齢層の男性の2倍、全人口平均の3倍。若い男性の24%が植物由来の代替肉を試すことに前向きではなく、同年代の女性の15%に対して高いのが現状です。
その背景には、タンパク質や肉の必要性を誇張する一方で、植物性タンパク源を否定するインフルエンサーの影響があるとHubbubは指摘。「若い男性の中には、植物ベースの食事は筋肉を発達させるのに不十分であり、男性としてのアイデンティティを脅かすものだと誤解する人もいる」と述べています。
本論文の著者らは、食品業界と政策立案者に対し、より多くの男性にアピールするため、植物性代替肉を「強さやパフォーマンスと両立し得るもの」として捉え直すよう呼びかけました。
女性が気候危機により関心を持ち、投票時にもこの問題を優先する可能性が高いことは以前から示されており、共著者の一人Marion Leroutierは「カーボンフットプリントにおける男女差が、女性の気候問題への関心の高さや日常生活における行動にも関連しているのかどうかを理解するためには、さらなる研究が必要だ」とコメントしています。
参考記事:
Study: Women Emit Significantly Less Carbon Than Men, Partly Due to Lower Red Meat Consumption
Red Meat & Cars Drive Climate Gender Gap, With Men Causing 26% More Emissions
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