米Synonym、世界の発酵生産の現状をまとめたレポートを発表

バイオマニュファクチャリング業界のスケールアップを支援する米Synonymが、最新レポート『State of Global Fermentation:世界の発酵生産の現状』を発行しました。

The Good Food Instituteとの共同開発で、世界中の微生物発酵を行える施設とその生産能力をまとめた無料データベース「Capacitor」と、今年6月に発表した最先端の技術経済性分析(TEA)* ツール「Scaler」を活用。

企業の生産能力決定を支援する、利用可能な既存施設の発酵能力および収益拡大要因に関するインサイトを提供しています。

* 技術開発において、その技術が組み込まれたシステム全体の経済性を評価すること。事業期間を通した収益と費用の見積もり、評価における感度解析などを行う。

技術的な進歩にはスケールメリット以上の効果が


生産のスケールアップは、既存製品との価格差を埋めるために必要なピースとされてきましたが、同レポートではこれが唯一の解決策というわけではないと示唆しています。

Scalerのデータによると、スタートアップ企業では規模(生産能力)が倍増するごとに、売上原価が1.4倍低下。しかし、技術的な進歩はさらに効果的で、力価(液体量に対する発現した標的分子の量)を倍増させるごとに売上原価は半減しました。

このことから、生産コスト削減のためには、菌株や設備の最適化といった技術面でのアクションを優先すべきであると結論づけています。

設備は、継続的な技術の進歩に合わせた柔軟な設計で、陳腐化を避けることが不可欠。また、バイオリアクターの小型化が可能な連続処理を採用して設備投資コストを削減することや、下流での回収率向上も重要とされています。

世界の発酵能力の現状


Capacitorのデータベースには現在、40カ国以上・246の発酵生産施設が登録されています。CDMO(受託製造施設)のほかにも数百の小規模施設が存在し、2023年2月以降、100近い施設が追加されたとのこと。

生産能力の大半(最大3,420万リットル)は欧州に集中しており、次いでアメリカ大陸(1,430万リットル)、そしてアジア太平洋地域(180万リットル)の順。アジアでは、中国に未確認の施設があると思われるほか、シンガポールのScaleUp Bioが事業規模の拡大に取りかかるなど成長が見られます。

しかしながら、発酵能力に対する業界の需要と実際の供給量の間には、依然として大きなギャップが存在。Scalerを使用するすべての企業がニーズの最大量に見合う施設を探した場合、6億リットル以上の容量となり、現在Capacitorに登録されている施設の総容量の10倍以上が必要です。

現状、ほとんどの生産施設がラボスケールとパイロット生産に重点を置いており、デモ生産(28%)と大規模生産(34%)を主軸に据える施設は比較的少なくなっています。

バイオリアクターのサイズについては、大規模生産に適した10万リットルを超えるタンクを有する施設は20のみ。こちらも大型バイオリアクターの需要に比べ、大幅に不足している状況です。

企業が市場に出している製品の種類は、タンパク質38%、脂質6%、ウェットバイオマス16%、ドライバイオマス20%。登録企業の65%が精密発酵35%がバイオマス発酵を使用しています。

政府資金の活用にも期待


発酵能力の供給量が限られ、各企業にとっては現段階での生産拡大が難しい状況にあって、ベンチャーキャピタルも融資に消極的になっています。そんな中、同レポートでは、政府のインセンティブや資金提供プログラムなどが有効な調達先となる可能性について指摘。

米国では、バイデン政権による政策の一環で、国防総省が「今後5年間で数十億ドルをバイオマニュファクチャリング業界に投入する」意欲を示しています。

アジア太平洋や中東諸国の政府もまた、食料安全保障のため同分野に投資。米国のアニマルフリー乳製品メーカーChange Foodsは、「NextGen FDI」イニシアチブの下、アラブ首長国連邦(UAE)経済省の支援を受けて、アブダビで精密発酵施設の建設に着手しました。

参考:Scale can transform the unit economics of precision fermentation, but it’s ‘not the most powerful lever,’ says Synonym

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