中国のJimi Biotechが世界初の鹿角幹細胞株を開発、来年中の認可申請を目指す

中国の培養肉企業Jimi Biotechが、世界初の鹿角幹細胞株を開発し、大量培養に成功したと発表しました。最初の培養鹿角製品の認可申請を、2024年に行う計画です。

食品・医薬品に使われるシカの角


Jimi Biotechが自社開発した人工知能システム「JEVOS」により不死化された細胞株は、これまでのところ24時間以内に分裂を重ね、60世代以上培養できているとのこと。

培養の元となる細胞には、3歳のニホンジカの角の先端から採取された細胞を使用。壮年期のシカは最も質の良い枝角を持っており、中でも先端部分の再生能が高いとされています。

中国では、シカの角は高級健康食品として珍重され、伝統的な中国医学でも利用されてきました。Jimi Biotechによると、その市場規模は中国国内だけでも30億元(約600億円)に上ります。

シカの角は自然条件下で完全に再生することができるため、アンチエイジング効果があると信じる研究者も多く、とりわけ角全体の1%にも満たない鹿角幹細胞についての研究が進められています*1

AIを活用して細胞株の樹立に成功


Jimi Biotechは2022年に、中国初の培養ビーフの開発に成功。その後間もなく、植物由来の足場を使わずに作られた細胞培養チキンを発表しました。

今年1月にエンジェルラウンドで2,000万元(約4億円)の資金調達に成功。その数カ月後には1,000万元(約2億円)の調達を完了しています。

同社は、ハイスループットの自動細胞進化プラットフォーム「JEVOS」を活用した、新たな食肉の開発に焦点を当てています。創業者のZhehou Caoによると、「良い細胞株を得るのは難しいため、昨年末からシステムの構築を始めた」とのこと。

すでにシカ、ウシ、ニワトリなど複数の動物種から細胞株を得ており、将来的には同システムを通じてさまざまな生物種から高性能の細胞を継続的に得られる見込みです。

規制クリアを待って鹿角製品の販売からスタート


同社は以前、微生物を加工して無血清培地を作ることで、培地コストを現在市販されている培地のわずか3%、1リットルあたり約100元(約2,000円)にまで下げることに成功したと公表。現在では、独自の細胞株を1mLの懸濁液中に1,000万個以上増殖させることに成功し、培地コストは同50元(約1,000円)まで低下しています。

しかし、さらなるコスト上の制約から、プレミアム価格を正当化できる製品(シカの角)に一時的に軸足を移すことを決断。創業者のCaoは、「培養肉の生産コストは大幅に削減できたが、それでも従来の肉と同等の価格を実現するには数年かかる。一方、シカの角が1kg数万元(約20〜60万円)以上で取引されることを考えると、ここではすでにコスト面で優位に立てている」と語っています。

まずは鹿角製品の販売から始め、継続的なコスト削減とともに培養ビーフの販売に移行。その後、豚肉や鶏肉などのより手頃な価格の製品も販売していく予定です。

14億人以上の人口を抱え、食肉消費量で世界をリードする中国ですが、国民の90%が代替となる培養肉の受容に前向きという調査結果も。同国における規制当局の認可に向けた動きについてはまだ明らかになっていませんが、Jimi Biotechでは来年中の認可申請を検討しています。

今月、中国初となる培養肉の大規模工場を開設したCellXも、まずは規制面がクリアになっているシンガポールと米国から始める予定としつつ、中国でも認可申請を行う意向を示しています。

*1 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35203249/

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