AIを活用して代替脂肪を開発するShiruが、年間数千トン規模の商業生産に到達

人工知能(AI)によるタンパク質探索プラットフォームを開発した米国のスタートアップ企業Shiruが、年間数千トンのアニマルフリー代替脂肪を生産する商業規模に到達したと発表しました。サンプル依頼の受け付けや商用の受注を開始しています。
天然のオレオゲル構造体を発見
Shiruの主力原料「OleoPro」は、不飽和脂肪酸と植物性タンパク質「uPro」をブレンドして作られる、植物由来の食肉、乳製品、化粧品用途向けの構造化された代替脂肪。
不飽和脂肪酸にゲル化剤を組み合わせて固形の飽和脂肪酸の機能的特性を付与するオレオゲルは、代替脂肪としての大きな可能性を秘めていると注目されていながらも、食品グレードのゲル化剤は入手しにくく、その使用には規制上の制約もあり商業生産には至っていませんでした。
Shiruは、AIの活用により天然のオレオゲル構造体を見つけ、「uPro」として製品化。ラベル上は「ジャガイモタンパク質」と表示されますが、オリーブ油、キャノーラ油、大豆油など、あらゆる液体の油を構造化することが可能です。
同社は、「OleoPro」と「uPro」に関して、食品メーカーや原料メーカーとすでに30件以上の契約を結んでいます。商業生産の達成により、ターンキーソリューションを必要とする企業に完成した原料を供給し、また原料メーカーに技術のライセンス供与を行う準備が整ったとのこと。
創業者でCEOのJasmin Humeは、「このマイルストーンは単に会社の成長を示しているだけでなく、AIによる探索が業界の根強い課題をかつてないスピードで解決できるということの強力な証明だ」と述べています。
牛脂やパーム油に勝る健康・環境面のメリット
米国では種子油を敬遠し、数十年前に飽和脂肪酸を多く含むという理由で廃れた牛脂が再び注目を集めていますが、牛脂の半分以上は飽和脂肪酸であり、そのほとんどがパルミチン酸。
パルミチン酸はLDL(悪玉)コレステロール値を上昇させ、代謝に悪影響を及ぼし、炎症を引き起こす恐れがあります。
米国人が飽和脂肪酸を摂りすぎている(摂取カロリーの12%を占める)のは以前から問題視されており、米国心臓協会(AHA)はこの割合を6%未満に抑えるよう推奨。歴史的に見て、飽和脂肪酸は同国で第一位の死因である心臓病のリスク上昇に関係しているためです。
その一方で、健康に良いとされるココナッツオイルやパーム油などの植物性油脂にも、熱帯林の伐採や人権侵害といった問題が存在。「OleoPro」は飽和脂肪酸の含有量を90%以上削減でき、かつ気候変動に優しい代替品として有望です。
Shiruは特に植物性代替肉につなぎとして用いられるメチルセルロースの、タンパク質ベースの代替品を開発中。また、結合性、起泡性、および構造的な利点を再現した代替卵も開発しています。
さらに、3,600万ドル(約51億4,000万円)の資金を調達しており、植物由来・微生物由来のタンパク質に関する世界最大のデータベース「ProteinDiscovery.ai」を運用。パートナー企業はこのAIプラットフォームを使うことで、原料として適切なタンパク質の迅速な特定・試験が可能です。
参考記事:
We’ve launched commercial production of game-changing ingredients – and we’re just getting started. | LinkedIn
AI food tech company moves protein and fat into commercial production
Shiru Hits Commercial Scale With AI-Derived Structured Fat Ingredient
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