【2025年版】培養肉・シーフード業界の現状まとめ —GFIレポート

米国の非営利シンクタンクThe Good Food Institute(以下、GFI)が、代替プロテイン業界の現状をまとめた2024年版レポートを発行しました。

各セクターの商業的状況、投資動向、技術革新、政府と規制の動向に関する分析を提供するレポートの全文は、こちら(🔗GFIウェブサイト)から閲覧可能。

本記事では、細胞性食品(培養肉・シーフード)に関する部分の記載をベースに独自調査の内容も加え、2024年の動向と2025年以降の展望についてまとめています。

資金調達は低迷、多面的な調達策が重要に


培養肉およびシーフードを手掛けるスタートアップ企業が昨年調達した金額は、世界で合計1億3,900万ドル(約201億円)。2023年の2億2,590万ドル(約327億円)からさらに減少しました。

代替プロテイン業界全体についていえる資金調達の鈍化は、同様に2021年以降の調達額が連続的に減少している、より広範な気候テックセクターのトレンドに追随するもの。

主に人工知能(AI)関連への投資が増加している影響で、ほかの産業への資金流入が足止めされた可能性が指摘されています。

資金繰りが難航する中でレイオフに踏み切ったり、SCiFi Foodsのように事業停止を余儀なくされる企業も見られましたが、GFIは、こうした再編の動きをカテゴリーの衰退と同一視すべきではないと強調。

1920年代の米国には700社を超える洗濯機メーカーがあったことを引き合いに出し、成長は長く曲がりくねった道のりであり、業界の進歩は資金調達の軌跡だけでなく、製品の味や価格、入手しやすさ、消費者受容といった複数の要素に基づいて判断するべきだとしています。

また一方で、昨年の特筆すべき調達案件としてはProlific Machines5,500万ドル(約79億7,000万円)Mosa Meat4,000万ユーロ(約66億1,000万円)の2つのラウンドがありました。

GFIは、現在の調達環境は数年間続いた低金利期とは異なっており、ゼロ金利やマイナス金利が常態化していた2021年のピーク時の環境にすぐに戻ることはないと予測。イグジットに成功する企業が出た場合に投資家心理が変化する可能性はあるものの、それまではここ数年に近い水準にとどまるだろうとの見解です。

いずれにしても、アーリーステージの企業が規模拡大を進めるには、より多くのリソースが必要。ベンチャーキャピタル投資はパズルの1ピースに過ぎず、政府、企業、慈善団体など多方面からの支援を模索し、設備リース、戦略的提携、政府系ファンド、ブレンデッド・ファイナンスといった多様な資金調達ソリューションを開発することが、これまで以上に重要と指摘しています。

市場化へ向けた法規制と政府の動き


2024年1月、イスラエルの規制当局がAleph Farmsの培養牛肉ステーキの販売にゴーサインを出し、世界で3番目の認可(培養牛肉では初)が実現。

調達が低迷した一方で、2024年も培養肉の新たな商業的展望が開けた一年となりました。

GOOD MeatがシンガポールのHuber’s Butcheryで史上初の小売り販売を開始したことで、消費者が初めて培養肉を手に取り、家庭で調理することが可能に。Vowの培養ウズラ肉というユニークな製品は、シンガポールと香港で立て続けに認可を取得しています。

シンガポールでは、同国のイスラム評議会が、一定の条件を満たせば培養肉もハラールとして認められるとの見解を出しました。

韓国は細胞培養食品の開発における規制特区を設置。規制の枠組みを構築して企業からの申請を受け付け、Simple Meatの製品などの審査をすでに開始しています。

英国も同様の制度として、規制のサンドボックスを創設し、規制システムの近代化に着手。Meatlyの培養ペットフードに対して同国初の認可が出され、ほかにも数社が申請を行っています。

厳しい食品規制のある欧州連合(EU)でも、初の認可申請がGourmeyにより提出されました。

昨年はまた、公的資金の投入が過去最高を記録。特にアジア全域で培養肉への公共投資が増加しました。中国とインドの両政府は、国内のバイオテクノロジーを強化するための大規模な取り組みに培養肉を含め、日本、韓国、シンガポール、ニュージーランドも官民の研究に対して資金を拠出。

インド、ニュージーランド、韓国はいずれも、国内のシーフード生産への影響の懸念から、培養シーフードに特に注目している様子。マレーシア政府は、培養肉業界への支援を評価する公式委員会を立ち上げ、首相自らが支持を表明しています。

その一方で、米国では州レベルで培養肉を禁止する動きが広がり、12州で禁止法案が提出されました。そのほとんどでは否決されたものの、フロリダとアラバマの2州で成立。UPSIDE Foodsはフロリダ州の禁止措置を違憲として訴訟を提起し、現在も争われています。

研究開発センター設置と大手企業の関与


昨年は、研究開発と商用化を促進することを目的とした、代替プロテインセンターやイノベーションハブを新たに設置する動きが各地で活発化。

中でも大きな投資を行ったのがAmazon創業者のジェフ・ベゾスが立ち上げたベゾス・アース・ファンドで、1億ドル(約145億円)を代替プロテインへの拠出に割り当て、米国、英国、シンガポールに立て続けに「Bezos Centre for Sustainable Protein」を設立しました。

持続可能性への取り組みを進めてきたミグロジボダンビューラーグループの業界大手3社は、スイスに細胞農業の新たな拠点「The Cultured Hub」をオープンさせ、生産規模の拡大を図るスタートアップ企業を支援する狙いです。

同様に、以前から見られた大手企業の関与は継続し、Meatableは食肉業界での経験が豊富な人材を経営陣に招聘して、タイの食肉大手Betagroからの出資も受けました。

ドイツの食品機器大手GEA Groupは、米国で代替プロテインの生産能力強化に向けたテクノロジーセンターの建設を開始。業界最大級の工場建設を進めるBeliever Meatsとも提携しています。

カナダで細胞培養ミルクを開発するOpaliaは、乳製品・乳原料のサプライヤーHoogwegt Groupから調達を行っています。

培地コストは予想以上の低下が実現


技術面に関しては、培地や足場、バイオプロセスの改良により、生産コストの削減とスケーラビリティといった課題への取り組みにおいて着実な進歩が見られました。

資金難にもかかわらず、小規模ながら技術革新が続き、培養タンパク質関連特許の出願件数は1,000件を突破。研究論文の本数も増加の一途をたどっており、昨年は培養シーフードの文献が相対的に増加しています。

GFIは、培養肉・シーフードに関連する75の細胞株(2021年末の43から増加)を特定しており、多くはB2Bプロバイダーが所有しています。非営利の細胞株リポジトリとして最大級のATCCは、利用可能な細胞株の情報を掲載したランディングページを開設しました。

生産コストを下げる取り組みの中でも、とりわけ培地コストの削減は重要なポイント。従来の製薬グレードのものに含まれるアルブミンや血清のような高価な成分を食品グレードの原料で置き換える試みが進み、昨年はQkineが食品グレードの成長因子を発売。

Nutrecoは食品グレード粉末培地の専用工場を開設し、日本のインテグリカルチャーは食品原料のみを使用する細胞農業スターターキットを発売しました。

エルサレム・ヘブライ大学とBeliever Meatsの研究では、リットル単価0.63ドル(約91円)の培地を使用。仮に生産規模を5万リットルに拡大した場合、培養鶏肉のコストをオーガニックチキンに匹敵する1ポンド6.2ドル(キロ単価約1,980円)まで下げられると予測されています。

GFIは全体として、培地コストの削減は予想を上回るスピードで進んでおり、今後数年間はさらなる技術革新によりコストが下がり続けるとの見立てです。

消費者の認識・受容の拡大は課題に


2024年の培養肉業界は、規制当局の承認においては前進したものの、消費者からの認知は前年からほぼ横ばいで推移している様子。

米国の認知度調査では、「cultivated meat(=培養肉)」について聞いたことがあると回答した消費者は、全体の23%

一方、「lab-grown meat(=実験室育ちの肉)」という、培養肉反対派が「人工物」のニュアンスを誇張して使う不正確な呼び名の方が、より多く(38%)認知されている結果となりました。

培養肉が販売された場合でも試す可能性が低いと答えた消費者は、最も多い理由として「従来の食肉を好む」(37%)、「培養肉が自然だと思わない」(36%)を挙げていました。「自然」という言葉は定義が曖昧で、栄養や安全性との関連が希薄であるにもかかわらず、クリーンラベルやオーガニック食品を求める多くの人々にとって重要度を増しています。

しかしながら、持続可能性や動物福祉といったメリットが説明されると魅力度が高まり、さらに倫理的なメリットは若い世代ほど感じる傾向が強いことが判明しました。

これらのことから、業界が今後製品需要を牽引するためには、消費者の正しい認識と関心を高めていく努力が欠かせません。

昨年培養肉が唯一実際に販売されたシンガポールでは、2023年にHuber’s ButcheryでGOOD Meatの製品を食べた消費者にアンケートを行った結果、味に魅力を感じた人が非常に多く、また食べたいと思う度合いは5点満点で平均4.41点と、高く評価されています。

2025年以降の予測と総括


2024年、細胞性食品業界は依然として、アーリーステージにおける資金調達の制約、技術面・コスト面のハードル、規制のスケジュールに関する明確性の欠如など、数々の障害にも直面しました。

米国においては、法的禁止措置の進展という新たな問題も持ち上がり、消費者の選択の自由を巡って議論が交わされています。

ですが、そのような制約を受けながらも、イノベーション・ハブや研究センターが世界各地で立ち上げられ、シンガポールや米国以外にも市場拡大の兆しが見え始めたのも事実。人工知能(AI)の活用により低コスト化が進むなど長足の進歩を遂げ、課題の克服が期待されています。

世界銀行が昨年発行したレポート「住みやすい地球の実現に向けて(Recipe for a Livable Planet)」では、農業・食料生産を変えることで温室効果ガス排出量の3分の1を削減できるとされ、代替プロテインの大きな可能性が示されました。

GFIは、現在の調達環境は2025年も持続し、資金難に陥った企業の間では事業の縮小、閉鎖、統合といった業界再編が起こる可能性があると指摘。上述のとおり、ベンチャーキャピタル以外も含めた多面的な調達策が重要になると強調しています。

結論として、2025年は業界にとって極めて重要な年になるだろうとのこと。複数の国・地域で販売認可が間近に迫っているため、新たに多くの消費者が初めて培養肉を試すことになると予測され、市場化された製品に対する消費者の反応、建設が進む新工場の試運転や稼働の行方が注目されます。

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