韓国の研究チームがピンク色をした「牛肉米」を開発、コメを支持体にウシの細胞を培養
韓国・延世大学の研究チームが、コメを支持体に用いてウシの筋肉と脂肪細胞を培養した「牛肉米」というユニークなハイブリッド食品を開発しました。2月14日付で発行された学術誌『Matter』に発表されています。
研究チームは、従来の牛肉に比べて栄養価が高いだけでなく、環境影響の小さい持続可能な選択肢になり得るとして、商品化にも前向きな姿勢を示しています。
コメを細胞培養のプラットフォームに
本研究は、韓国政府が資金提供する韓国研究財団(NRF)のバイオ・医療技術開発プログラムなど、複数の助成金を得て行われたもの。
通常、コメは約80%がデンプン、残りの20%がタンパク質とその他の栄養素で構成されていますが、研究チームは「すでに豊富な栄養素を含んでいるコメに動物細胞を加えることで、その栄養価をさらに高めることができる」といい、コメの機能性を最適化する手法を見出しました。
自然界では、細胞は組織や器官を形成する際、細胞同士の隙間を埋めるように存在している細胞外マトリックスを足場として用います。
ラボスケールでは細胞外マトリックスの構造を人工的に模倣した足場が多く使われますが、生体分子エンジニアのSohyeon Parkが率いる研究チームは、動物細胞を培養する際の足場として、多孔質構造を持ったコメに着目しました。
この独特の構造が、動物細胞を微細な穴の隅々まで収容する強固な足場となることに加えて、細胞に栄養を与えて成長を促進できるため、コメは細胞培養の「理想的なプラットフォーム」になるといいます。
生産プロセスでは、まず米粒を食品用途のフィッシュゼラチンと酵素でコーティング。これにより、米粒に付着して成長する細胞の量が最大化されます。
その後、米粒にウシの筋肉と脂肪由来の幹細胞を播種し、シャーレの中で9~11日間かけて培養。こうしてできたピンク色の「牛肉米」は、食品安全要件を満たしており、アレルギー誘発のリスクも低いとのことです。
環境影響とコストを大幅に低減
炊飯した際の食感、香り、栄養価などの分析を実施した結果、一般的なもちっとした柔らかな食感に比べ、ハイブリッド米はやや硬めでパサつきのある食感に。
筋肉含有量の高いものでは牛肉やアーモンドのような香りがし、脂肪含有量の高いものはクリームやバター、ココナッツオイルに似た香りを持っていました。
味は「牛肉の味を正確に再現しているわけではないものの、斬新で美味しく、色々な料理とよく合う」とのこと。
また、栄養価には大幅な改良が見られ、通常のコメに比べタンパク質が8%、脂質が7%増加。最適化を図れば、さらに高いレベルに達する可能性もあるといいます。
そのほか、環境フットプリントとコストが牛肉に比べて低いことも大きなメリット。研究チームの試算によると、従来の牛肉生産ではタンパク質100gあたり49.89kgのCO₂が発生するのに対し、ハイブリッド米では同6.27kg。
商品化された場合、牛肉の価格が1kgあたり14.88ドル(約2,230円)に対して、ハイブリッド米は同2.23ドル(約334円)程度と推定されています。
専門家からは賛否両論
ハイブリッド米は食品安全上のリスクが低く、製造工程も比較的単純であることから、研究チームは商品化に前向きな様子。今後は米粒への細胞の取り込みを最大化する方法を模索するなど、生産プロセスの改良を目指すとしています。
Parkは、「細胞を増殖させるコメの能力は予想を上回るものだった。このハイブリッド米は、緊急時の食糧支援、軍事配給、また将来的には宇宙食としての活用も可能だ」と語っています。
独立した専門家の意見として、フィンランド・ヘルシンキ大学で持続可能なフードシステムを研究するHanna Tuomistoは、ハイブリッド米が大きなインパクトを与えることについては疑問視。
最終製品に含まれる培養牛細胞は、1kgあたり4.8gとわずか0.5%にとどまっており、残りの99.5%は純粋なコメ。「米やその他の炭水化物の代替として食卓に上る可能性はあっても、肉を置き換えるにはタンパク質の割合をより高めることが必要」と指摘しました。
一方、英イーストアングリア大学のNeil Wardは、ハイブリッド米は温室効果ガス排出量を8分の1、コストを6分の1以下に抑えて動物性の栄養素を供給できる可能性があるとし、「この研究は将来、より健康的で環境に優しい食を発展させる可能性を秘めている」と語っています。
参考記事:
Lab-grown ‘beef rice’ could offer more sustainable protein source, say creators | Food | The Guardian
By growing animal cells in rice grains, scien | EurekAlert!
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