シンガポールの研究チームが、ビール醸造後の穀物からタンパク質を抽出する手法を開発
シンガポールの南洋理工大学(Nanyang Technological University)食品科学技術プログラムの研究チームが、ビール製造の後に残った穀物に含まれるタンパク質の80%以上を抽出する手法を開発。
査読付き専門誌『Innovative Food Science and Emerging Technologies』に、その研究結果が掲載されました。
廃棄されていたビール粕を有用な原料に
ビールの原料である麦芽から糖分を抽出した後に残る固形のビール粕(BSG)は、ビール産業から出る廃棄物の85%を占め、世界で年間3,640万トンと推計されています。
ビール粕は家畜飼料(用途の70%を占める)やバイオ燃料生産、堆肥などに再利用される場合もある一方で、かなりの部分は産業廃棄物として埋め立て処分されてきました。
南洋理工大学のチームは、このビール粕からタンパク質を得る方法を探るため、ビール大手のハイネケン・アジア・パシフィックと協力。シンガポールで19%の市場シェアを持つタイガービールを生産するハイネケンから、研究に使用するビール粕の提供を受けました。
研究チームは、ビール粕を殺菌した後、テンペ(インドネシアの伝統的な発酵食品)の製造に使われる菌の一つであるRhizopus oligosporusを用いて発酵させました。3日間の発酵プロセスにより、ビール粕の複雑な構造が破壊され、タンパク質の抽出が容易になります。
発酵が終わると、乾燥させて粉末にし、ろ過と遠心分離にかけてタンパク質を分離。このタンパク質は、サプリメントに直接使用したり、植物性食品に添加してタンパク質量を増やしたりといった利用が可能です。
また、ビール粕のタンパク質は天然の角質除去特性を有し、抗酸化物質を豊富に含んでいるため、ローションやクリームなど化粧品への利用も効果的。環境ホルモンの疑いがあると指摘されている防腐剤パラベンや、石油由来成分といった従来の化粧品成分を置き換える、環境に優しい代替品となります。
シンガポールが進める食料自給にも貢献
今回の研究では、ビール粕1kgあたり200gのタンパク質を抽出することに成功。仮に世界中のビール製造から出たビール粕を発酵させてタンパク質を生産できたとすると、毎年728万トンのタンパク質を得られる計算になります。
GFI Asia-Pacificの代表を務めるMirte Goskerは、「この革新的な手法は、シンガポールの原料輸入への依存軽減、地元の生産者の新たな収入源創出、植物性代替肉の栄養価向上につながる」とコメント。
シンガポールは現在、食料供給の90%を輸入に頼っていますが、政府は2030年までに食料の30%を地元で生産するという目標「30 by 30」を掲げています。
南洋理工大学の研究チームは今後、タンパク質抽出の規模を拡大させ、複数の食品・飲料メーカーや化粧品メーカーと協力しての商業化を視野に入れた技術開発を進める計画です。
参考記事:
Beer Proteins: Researchers Develop Method to Extract Protein from Brewers’ Spent Grain
Researchers Extract Protein From Spent Beer Grains | Technology Networks
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