米・フロリダ州で培養肉禁止法が成立も、既存の食肉業界から上がる非難の声

米国・フロリダ州知事のRon DeSantisが、州内での培養肉の生産・販売を禁止する法律「Senate Bill 1084」に署名しました。5月1日付で制定され、7月1日より施行されます。

伝統的な食肉生産への支持を表明


この禁止法案は、同州下院議員のTyler Siroisが昨年11月に提出したもの。2月末に上院で26対10、その1週間後に下院でも86対27の賛成多数で可決され、州知事の署名を残すのみとなっていました。

DeSantis州知事は調印式で、伝統的農業への支持を表明。「これは、米国をはじめ世界中で最終的に食肉生産をなくそうとするイデオロギーに反撃するものだ。フロリダ州は常に農業の側に立つという姿勢を明確に示したい」と述べ、「実験室育ち(lab-grown)のフェイクミートは他所で食べれば良い」とも語りました。食肉生産が増え続けるフロリダ州では、農地の約半分が牛肉生産用に確保されているといいます。

7月1日の施行後は、培養肉の生産、輸送、および販売は第2級の軽罪(second-degree misdemeanor)として取り締まられます。違反した事業者は免許を剥奪され、直ちに販売停止命令を受ける可能性も。

提案段階では培養肉の研究も禁止するという内容が含まれていましたが、培養肉生産を探求している宇宙産業への潜在的な影響を避けるため、法案の最終版からは省かれています。

培養肉業界のほか、食肉業界からの非難の声も


同法に批判的な声をまとめると、①世界的に多額の投資を集めている分野、中でも米国で投資が活発な分野の技術革新を阻害する、②培養肉の安全性はすでに認められている、③自由市場の原則に違反しており、消費者の選択肢を狭めてしまうというもの。

米国で培養肉開発を手掛ける企業は43社を数え、世界的投資の60%以上を集めているといいます。現在は米国が世界を大きくリードしている状況ですが、禁止措置によりこの投資が落ち込むと、中国などの他国に覆され、イノベーションで後れを取ってしまうのではとも懸念されています。

米国では、米国農務省(USDA)米国食品医薬品局(FDA)による広範な安全性評価が完了し、昨年6月にGOOD MeatUPSIDE Foodsの2社に対して販売認可が降りました。

代替プロテインのシンクタンク、The Good Food InstitutePepin Tumaは、「食品安全に関する知見のない議員たちが、なぜ関係のないところに口を挟むのか」と非難。こうしたテーマに関する専門知識が明確に不足している政治家が、既得権益のための保護主義的な政策を推し進めてしまっていることに対して、警鐘を鳴らしています。

Eat Just(GOOD Meatの親会社)でグローバルマーケティング責任者を務めるTom Rossmeisslは、「この法案の目的は、農業大手が説明責任と競争を回避するのを助けること」と指摘。「法制定により、多国籍企業とロビー活動家たちが勝利を収めた」とコメントしました。

注目すべきは、米国で最も長い歴史を持ち最大の業界団体である北米食肉協会(NAMI)が、2月にDeSantis州知事に宛てた書簡の中で、この禁止措置を「悪い公共政策」と非難したこと。生産量ベースで米国の食肉業界の95%を代表する同団体ですが、「この法案は、将来的に法案の支持者にも悪影響を及ぼしかねない」として、消費者の選択肢を確保することの重要性を強調しています。

世界的に需要が増大する中、タンパク源の多様化は必須


米国内で培養肉の販売が公式に禁止されたのは今回が初ですが、アラバマ州、アリゾナ州、ウィスコンシン州、テキサス州、テネシー州、ネブラスカ州でも、さまざまな形で禁止が提案されています。つい先日、アラバマ州議会がフロリダ州と同様の法案を可決し、アリゾナ州議会も製品表示の制限を求める法案を可決しました。

世界的に見ると、イタリアで昨年11月に培養肉を禁止した初の法律が成立。ルーマニアでも同様の法案が上院を通過しています。

国連食糧農業機関(FAO)のデータでは、畜産に由来する温室効果ガス排出は人為的な排出全体の11.1〜19.6%に上るなど、畜産が環境に及ぼす悪影響は明らか。

それに比べて、2023年に実施されたライフサイクルアセスメントでは、培養肉生産は気候への影響を最大92%、大気汚染を94%、土地利用を90%削減できると試算されています。

米国のスタートアップ企業で構成される細胞農業同盟Association for Meat, Poultry and Seafood Innovation(AMPS Innovation)は、禁止法の成立を受けた共同声明の中で、タンパク質の安定供給や食料安全保障の強化など、培養肉のもたらすメリットは広く認識され続けていることを強調。

「限られた資源と需要の増大という問題に直面する中、タンパク源を多様化する必要性の認識から、世界の多くの国々や既存の農業界のリーダーたちは培養肉・シーフード産業を支持し、投資さえ行っている」と指摘しています。

参考記事:
Florida Officially Bans Cultivated Meat as Governor Mocks World Economic Forum
Florida bans lab-grown meat, adding to similar efforts in three other states
Florida Becomes First State to Ban Cultivated Meat as Governor Says “Take Your Fake Lab-Grown Meat Elsewhere”

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