シンガポールのTurtleTree、精密発酵ラクトフェリンのGRAS自己認証を取得
シンガポールのスタートアップ企業TurtleTreeが、米国で精密発酵ラクトフェリンのGRAS(Generally Recognized as Safe)ステータスを取得したと発表しました。
米国内での販売が可能に
GRAS(一般に安全と認められる物質)とは、米国食品医薬品局(FDA)の定める、新規食品成分の安全性を保証するための認証制度。精密発酵で得られた食品成分は新規なものであるため、販売にあたってはGRAS認証の取得が必要となります。
GRAS認証を受ける際にFDAの認可は不要で、各企業は自社製品の評価を初期判定として行うことができます。専門家により安全性が評価され、FDAの要求事項を満たしていると判断されれば、FDAへの通知は任意です。
ただし自己認証取得後、正式にFDAに提出して審査を通れば「GRAS Notice」を取得でき、該当物質がGRASリストに「FDA has no questions(異議なし)」として収載されることとなります。
TurtleTreeは今回、精密発酵により生産したウシラクトフェリン「LF+」について、FDAの規定に従ってGRAS自己認証を実施。創業者でありCEOのFengru Linによると、来年にもFDAへの正式なGRAS Notice申請を行う予定とのことです。
現在、精密発酵乳タンパク質でFDAからの正式なGRAS Noticeを取得しているのは、米国のPerfect Day(乳清タンパク質)、The EVERY Company(卵白タンパク質)、イスラエルのRemilk(乳清タンパク質)の3社のみ。
Imagindairyの乳清タンパク質はすでに自己認証まで取得しており、現在FDAでの審査中。この審査期間は、6カ月〜1年程度が目安とされています。
世界的に需要が拡大する希少原料
ラクトフェリンは、ヒトやウシの母乳(特に初乳)に多く含まれる、感染防御機能を持った乳清タンパク質。
精製されたラクトフェリンをわずか1kg生産するのに1万リットル以上の牛乳を必要とする、極めて希少なタンパク質であり、現在キロ単価750~1,500ドル(約11〜22万円)で販売されているといいます。供給量に限りがあるため、乳児用粉ミルクやサプリメントなど、ごく一部の必要不可欠な食品・飲料にしか使われていません。
ラクトフェリンに対する世界的な需要は増加しており、Future Market Insightsの予測では、ウシラクトフェリン市場は15.8%の年平均成長率(CAGR)で成長し、現在の7億7,200万ドル(約1,150億円)から2033年には33億ドル(約4,930億円)に達するとされています。
世界初のラクトフェリン商品化で収益を創出
TurtleTreeは、生産量を拡大することで世界的なラクトフェリン不足を解消し、これまでコストや供給量の問題でリーチできていなかった新たな消費者層を取り込むことができると主張。
「プロテインパウダー、機能性飲料、高齢者向け代替食、マルチビタミンなどの成人向け栄養製品の強化や、機能性の面で従来の乳製品に近づけるため植物性乳製品へ添加することなどが、用途として考えられる」と述べています。
創業当初は細胞培養による母乳の生産を計画していた同社ですが、その後精密発酵に軸足を移しました。この理由について、CEOのLinは「細胞を用いる手法では、短期間で低コスト生産を実現する方法が見つけられなかったため」と語っています*。
今年初めには、米・サンフランシスコでLF+を用いた乳製品の独占試飲会を開催。昨年度は1,000万ドル(約14億9,000万円)の純損失を計上していましたが、精密発酵ラクトフェリンを商品化する初のメーカーとして収益を得ていく計画です。
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