イスラエルのForsea Foodsが培養ウナギの開発に成功、東京のヴィーガン食レストラン「菜道」と協働
細胞培養ウナギの開発に取り組むイスラエルのForsea Foodsが、試作品の開発に成功したと発表しました。日本のレストランや戦略的パートナー企業との協働により、2025年を目処に製品展開を目指します。
東京のレストランと共同開発
Forsea Foodsによると、培養ウナギの試作品は、「天然のニホンウナギが持つ身の柔らかさ、しっとりした食感、重厚な旨味を再現」できているとのこと。
この発表に合わせ、東京都内に店舗を構えるヴィーガン食レストラン「菜道」のオーナーシェフ楠本勝三氏が、培養ウナギを用いた蒲焼と握り寿司を披露しました。
「菜道」は、ヴィーガン・ベジタリアン向けの情報サイトHappyCowから、世界一のヴィーガン食レストランにも選ばれている名店。すでに100%植物性のウナギを提供しており、規制当局の認可が下り次第、培養ウナギの提供も開始する考えです。
生産面でメリットの大きいオルガノイドを活用
2021年に設立されたForsea Foodsは、生産において独自のオルガノイド形成技術を活用。
オルガノイドとは、臓器の機能と立体構造を生体外で模倣した「ミニチュア臓器」を指す言葉で、培養肉・シーフード生産では、幹細胞を育てて脂肪や筋肉からなる微小な3D組織を作製します。
これは、細胞が体内で自然に成長するプロセスを模倣したもので、細胞は自発的に食用に適した細胞へと分化。オルガノイドを使用すれば、細胞が組織を形作る際に支持体となる足場が不要になるため、生産プロセスを簡素化でき、スケーラビリティが向上するというメリットがあります。
さらに、高価な成長因子への依存を大幅に減らすことで、コスト効率の高い生産が可能に。
高級魚としての地位を維持してきたウナギの平均卸価格は、1kgあたり5,000円前後。Forsea Foodsは、同社の培養ウナギの卸価格が1kgあたり60ドル(約8,900円)、レストラン向け販売価格が同250ドル(約37,000円)になると予測しています。
将来的に培養ウナギの価格を従来品近くまで低下させ、43億ドル(約6,360億円)規模の市場において破壊的な存在となれるかが注目されます。
日本を含むアジアが主要ターゲット
Forsea Foodsの共同創業者でCEOを務めるRoee Nirは、「高品質なアジアの伝統料理と革新的な技術を融合させ、海洋の生態系にこれ以上の悪影響を及ぼすことなく、消費者に本物のシーフードを提供したい」と語っています。
ウナギの消費量が最も多い日本を主要なターゲットと見込んでいますが、シンガポールの規制当局ともやり取りを行っている様子です。
岸田政権は昨年、細胞農業への支持を表明し、国の環境フットプリントを削減するべく新しい食品の分野を確立させる計画を発表。「安全確保の取り組みや表示ルールの整備など新たな市場を作り出すための環境整備を進め、日本発のフードテックビジネスを育成する」と述べました。
昨年末には、東京に本社を置くインテグリカルチャーに18億7,000万円を交付。同社は、大規模細胞培養プラットフォーム「CulNet System」を構築し、血清や成長因子を一切使うことなく培養フォアグラの生産を成功させている企業です。
こうして培養肉の産業育成に乗り出す姿勢が示されたものの、日本の法規制の枠組みは、間もなくより複雑化することが懸念されています。
厚生労働省は、4月に「食品衛生基準行政」を消費者庁に移管予定(食品衛生監視行政は厚生労働省が引き続き担当)。このため、培養肉・シーフードを手掛ける企業は、規制の問題に関連して2つの機関と同時に連携を取らなければなりません。
持続可能性の問題を抱えるウナギ漁
近年、乱獲や海洋汚染などが原因となり、ウナギの個体数は深刻な絶滅の危機に瀕しているといわれるほど減少。これは日本に限ったことではなく、EUではウナギの個体数が1980年比で98%も減少し、2010年には輸出禁止措置まで課されています。
ウナギの複雑な生態に起因する養殖の難しさが状況をさらに悪化させており、海洋の持続可能性を保つためにも、市場で受け入れられる代替品の開発が喫緊の課題です。
現状、培養ウナギを手掛けているのはForsea Foods以外にありませんが、同じイスラエルのSteakholder Foodsは昨年末、3Dプリントにより製造した植物性の代替品を発表。コスト面の課題をクリアできれば、今後培養ウナギの開発も予定しています。
その他、米Ocean Hugger Foodsと日本の日清食品は、植物由来のウナギをすでに市場に送り出しています(前者はナス、後者は大豆タンパク質を使用)。
Forsea Foodsは、日本を含むアジア全域で戦略的パートナーを探しながら、2025年の製品発売を目標に設定。同時に、欧州と米国も成長市場としてターゲットに入れています。
参考記事:Cultured Unagi: Forsea Foods Unveils ‘World First’ Cultivated Eel with Tokyo Eatery Saido
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