ドイツの研究プロジェクト「NovelSweets」から、砂糖の1万倍の甘さを持つタンパク質ベースの甘味料が誕生
フラウンホーファー分子生物学・応用生態学研究所(Fraunhofer IME)の研究チームが、ドイツ企業のmetaXおよびCandidumと連携したプロジェクトで、砂糖に代わるタンパク質ベースの甘味料を開発したと発表しました。
砂糖の1万倍の甘さを持つタンパク質
「NovelSweets」と名付けられたこのプロジェクトは、食品・飲料製品の砂糖含有量を削減するドイツ連邦食糧・農業省(BMEL)の取り組みを支援することを目的にスタートしました。
具体的には、酵母と精密発酵の技術を用いて、ブラゼイン* のタンパク質配列に基づいた甘味料を新たに開発。
その製法は、タンパク質を作り出す遺伝子を導入した酵母をバイオリアクター内で増殖させるもので、十分な量に達したところで精製、乾燥させ、タンパク質の粉末のみを抽出します。
「X3」と呼ばれるこの甘味料は、砂糖の約1万倍、天然のブラゼインの3〜4倍の甘さを持つとのこと。少量の添加でも十分な甘味を発揮し、製品の味自体に影響を与えることなく効率的に砂糖を代替できます。
この方法では、タンパク質のpHと温度安定性に加えて、甘味やその他の官能特性を改善することが可能。研究チームのStefan Rascheによると、ブラゼインは食べると喉に引っかかる感覚があるといいますが、タンパク質の遺伝子配列を少し変えることでこれを取り除くことが可能です。
* 西アフリカに自生するニシアフリカイチゴ(Pentadiplandra brazzeana)の果実に含まれる、最も知られた甘味タンパク質の一つ。実のなる場所が人里離れているため、収穫した果実から直接抽出するのは困難となっている。
人工甘味料に代わる可能性に期待
実質カロリーゼロの「X3」は、虫歯の原因にもならず、食後の血糖値を上昇させることもありません。プロジェクトでパートナーとなっているmetaXは現在、ココア入り飲料パウダーなど、この甘味料を使った製品開発に取り組んでいます。
精密発酵により生産されるもののため、商品化にあたっては規制当局からの認可が必要。生産プロセスの最適化と、製品検証手法の導入を行った後、認可取得を進める計画です。
甘味タンパク質をベースとした甘味料の開発例は散見され、米国ではOobliが精密発酵ブラゼインとモネリンについて、今年正式なGRAS(Generally Recognized as Safe)ステータスを取得。
MycoTechnologyは、天然のトリュフに含まれる甘味を持ったタンパク質を発見し、Shiruと味の素は甘味タンパク質の開発と商品化に向けて提携しました。
さらに、アブダビを拠点とするNovel Foods Groupは今年3月、5億ドル(約769億円)を投じてブラゼインを生産する精密発酵拠点を建設する計画を発表しています。
砂糖の削減を狙うドイツ政府の取り組み
世界保健機関(WHO)は砂糖の推奨摂取量を1日あたり25g(大さじ約6杯分)と定めていますが、パッケージ食品には砂糖が多く含まれているのが通常で、例えばコーラ1缶(330ml)に含まれる砂糖は33g。現代的な食生活を送る人にとって、これはやや難しい目標となっています。
ドイツは欧州でも有数の砂糖消費国であり、消費量が増えるに伴い慢性疾患の増加が問題になってきました。国民の約半数が太り気味で、成人の5人に1人が肥満。10%が糖尿病(ほとんどが2型)を患っており、その数は増加傾向にあります。
連邦政府は2018年、加工食品に含まれる砂糖、脂肪、塩分を削減するとともに、より健康的なソリューションを推進する国家戦略を採択。ここでは、子供の朝食用シリアルに含まれる砂糖を少なくとも20%、子供向けのソフトドリンクと加糖乳製品に含まれる砂糖を15%削減することが目標とされています。
しかしながら進展は今一つのようで、BMELが今年発表したデータでは、複数の加工食品・飲料で含まれる砂糖の量にほとんど変化は見られず、政府は専門家に対し、年末までに製造業者に課す新たな目標を策定するよう要請しました。
砂糖を置き換えるという意味では、人工甘味料の利用も広がってはいますが、健康上の懸念を持つ人も存在するのが実情。アスパルテームは、昨年WHOによって発がん可能性のある物質に分類され、エリスリトールが心臓病や脳卒中のリスクを高めるとの報告もなされています。
今後、タンパク質由来の甘味料の安全性が認められ一般に手に入るようになれば、従来の砂糖や人工甘味料の市場を揺るがす新たなトレンドとなるかもしれません。
参考記事:
NovelSweets Project Develops Protein-Based Sweetener 10,000 Times Sweeter Than Table Sugar
Researchers Develop ‘Honey-Like’ Protein That’s 10,000 Times Sweeter Than Sugar
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