米Debut Biotechnologyがカイガラムシに由来しない代替色素を開発、FDAの赤色3号禁止で需要増

バイオテクノロジーを駆使して美容業界向けの原料を開発・生産する米国企業Debut Biotechnology(以下、Debut)が、カルミン酸色素の代替品開発において画期的な進歩を遂げたと発表しました。
複雑な分子構造から再現が困難だった赤色色素
カルミン酸色素(コチニール色素)は、一般的にメキシコ原産のコチニールカイガラムシに由来する鮮やかな赤色色素で、美容製品、食品、繊維製品に広く使用されている原料です。
この色素の歴史は古く、数千年前のマヤ帝国やアステカ帝国にまで遡りますが、Smithsonian Magazineによると、5分の1ポンド(約90g)のカルミン酸を得るために、推定7万匹のカイガラムシが必要とのこと。
カルミン酸色素に代わる合成色素も開発されてはきたものの、中には健康上の懸念を引き起こすものもあり、米国食品医薬品局(FDA)は1月、菓子や漬物などに着色料として使われる「赤色3号」に発がん性があるとして、使用を禁止しています。
また、化学合成により作られた代替品は鮮やかさや安定性の面で不十分であり、正確に同じ色合いも実現できていませんでした。
Debutの創業者でCEOを務めるJoshua Brittonはその理由について、カルミン酸の分子構造は最も複雑なものの一つで、この昆虫がどのようにして鮮やかな赤色を生み出すのかが不明なためと説明。
「昆虫の体内で起こっている科学を理解しなければ、誰もそれをコピーすることはできない。20年にわたり構築された理論や多くの科学的論争があったが、誰にも分かっていなかった」と述べています。
パイロットスケールでの生産に成功
Debutは、約4年間にわたって取り組んできたこのプロジェクトで、独自に発見した2種類の新たな酵素を活用して、カイガラムシに頼らずにこの色素を生産できる技術を開発しました。
このプロセスは、特許取得済みの微生物生産システム「Bio2Consumer」とバイオものづくりを組み合わせて産業上の制約を克服し、バイオ生産を100倍向上させるとのこと。
同社の代替原料は、カイガラムシ由来の従来の色素に含まれ、皮膚刺激を引き起こす場合のある特定のタンパク質を含んでいません。純度も、従来の10%程度に対して95%以上と高く、サプライチェーンの安定化も見込めます。
先日、パイロットスケールまで拡大しての生産を成功させ、美容用途の製法を確立しました。
市場調査会社のMintelによると、過去1年間に美容・パーソナルケア製品を使用した米国消費者の30%がヴィーガン成分の使用を安全と認識しており、こうした成分に関心がある、またはもっと詳しく知りたいと回答したのは16%。
Fortune Business Insightsによると、昨年のヴィーガン美容カテゴリーの市場規模は192億1,000万ドル(約2兆8,300億円)と評価され、2032年には325億6,000万ドル(約4兆8,000億円)に達する見通し。昨年、ヴィーガン化粧品の市場シェアは欧州で圧倒的に高く、33.84%でした。
化粧品に続き、食品用途へも応用を画策

Debutは昨年、最初の自社製品として、抗酸化作用などを持つナリンゲニンをベースにした「DEINDE」ブランドを発表し、消費者への直接販売を開始しました。
ナイアシンアミドの代替品というこの主成分は、グレープフルーツの皮から抽出した分子を用いた発酵により作られています。
同社には、化粧品世界最大手ロレアルのVC部門であるBOLDが最大の投資を行っており、これまでに4,000万ドル(約58億9,000万円)を投資。日本の化学メーカー、DIC株式会社も共同で研究開発を実施し、2023年のシリーズBラウンドに参加しています。
今回開発された色素は、Debutが昨年立ち上げた受託製造事業部門BiotechXBeautyLabsを通じて、2027年ごろに美容業界への供給が開始される予定。同社はまた、より規制の厳しい食品・飲料用途への応用についても検討しており、業界大手と協働する交渉を進めています。
参考記事:
Exclusive: Debut Biotech launches carmine pigment alternative as vegan beauty grows and red dye No. 3 is banned – Glossy
How Debut Is Bringing Its Bio-Carmine to Market | BeautyMatter
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