米SavorがCO₂や水素から作られたバターを発売、ミシュランの星付きレストランで展開へ

米国・カリフォルニアのフードテック企業Savorが、生産に農場を使用しない画期的な手法で作られたバターを発売しました。今年、提携するカリフォルニアの複数の人気店で原料としてデビューする予定です。
ミシュランの星付きレストランなどで展開へ
2022年から代替脂肪の開発を進めてきたSavorは、動物も植物も使わず生産されたバターの正式な発売にあたり、ニューヨークとサンフランシスコでディナーイベントを開催しました。
この脂肪成分は、排出源からピンポイントで回収したCO₂、グリーン水素、メタンを用いる熱化学的プロセスによって分子レベルで構造化されたもの。
昨年GRAS自己認証による安全性確認を経て米国での販売が認められており、Savorはココアバターでも近く認可取得を見込んでいます。
カリフォルニア州では、ミシュランの星を獲得した「SingleThread」や「ONE65」、人気ベーカリー「Jane the Bakery」など多くの店舗が、近々このバターを使ったメニューの提供を開始する予定。
各店の正確な発売時期やバターの使用方法は明らかにされていませんが、2025年を通して展開されることが決まっています。
農業によらない革新的な生産手法

Savorの生産プロセスでは、まず水から水素を、空気由来のメタンやCO₂から炭素を取り出し、アルカンと呼ばれる炭素鎖を持つ構造に変換。高温・高圧下で酸素を加えて酸化させ、アルカンを脂肪酸へと変えます。
この脂肪酸をグリセロールと結合させ、構造化中長鎖脂肪酸トリグリセリド(SMLCT)を生成。同社の手法では脂肪酸組成(短鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸など)を調整できるため、既存のあらゆる油脂の代替品を作ることが可能です。
炭素を含む気体から直接脂肪を生成することで、植物が炭素を捕捉し、動物がその植物を食べ、人間がその動物の脂肪を収穫・変換・精製するという長いプロセスを回避して、その過程で発生する広大な土地の利用と排出を削減できます。
Savorの推定では、動物性および植物性油脂の生産を合わせると、世界の温室効果ガス排出量の7%を生み出しているとのこと。同社の製品は、脂肪分80%の無塩バターとの比較で、排出量を67%少なく抑えられるといいます。
この脂肪は、濃度が異なるだけで、一般的に食べられているものと化学的に同一。同社初の製品となるバターの主原料はMLCTオイル(中・長鎖トリグリセリド)で、水、海塩(2%未満)、ヒマワリレシチン、天然香料、β-カロテン(着色料)を加えて作られます。
ビル・ゲイツも投資し注目を集める
Savorのバターはレストランだけではなく、多くの食品メーカーの研究開発チームからも注目を集めている様子。独自のプラットフォームが生み出す脂肪酸プロファイルの多様性と汎用性に魅了された企業と、共同開発契約の交渉を進めています。
2022年に行われたシードラウンドでは、ビル・ゲイツが自身のBreakthrough Energy Venturesを通じてリードインベスターとして投資。「試食したところ、本物のバターとの区別がまるでつかなかった」と絶賛しています。
昨年試作品を発表した際には、『The Guardian』誌などでも取り上げられ話題を呼びました。SavorはFast Companyの「2025年世界で最も革新的な企業」にも選出され、共同創業者でCEOのKathleen Alexanderは、Inc. Magazineの「2025年女性創業者500人」リストに選ばれています。
発売に向け同社は、本社の研究開発能力を拡大し、イリノイ州に数トン規模の生産が行える25,000平方フィート(約2,300平方メートル)のパイロットプラントを開設しました。
これまでに3,300万ドル(約49億7,000万円)を調達していますが、スケールアップのため今年後半にはシリーズBラウンドの資金調達を開始する予定です。
参考記事:
Savor ウェブサイト
For Its Sustainable Butter, Savor is Ditching Cows for CO2 – and You Can Eat It This Year
Savor unveils first-of-its-kind ‘butter’ made without cows, plants, or microbes
This butter wasn’t made from plants or animals—it was made with methane – Fast Company
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