培養霜降り肉の再現を可能にする自己修復性ハイドロゲルを開発 —韓国・仁荷大学校

韓国・仁荷大学校の研究チームが、結着剤の添加や複雑な加工によらずに霜降り肉の培養生産を改善できる、自己修復性のハイドロゲル技術を発表しました。

効率的な接着・分化を可能にするハイドロゲル足場


この研究結果は、米国化学会(American Chemical Society)の学術誌『ACS Applied Materials & Interfaces』に掲載されました。

研究チームは、ボロン酸を結合させたキトサンとポリビニルアルコールを組み合わせたハイドロゲル上で筋組織と脂肪組織を正確に積層させ、豚バラ肉やステーキといった従来の食肉製品の霜降り構造を再現できることを実証しています。

このハイドロゲル足場は、pHが中性のとき、強力かつ可逆的な接着作用を発揮したとのこと。これにより、培養した筋細胞や脂肪細胞を効果的に接着・分化させられ、共培養や単培養において細胞の不十分な接着がもたらす課題を克服することが可能です。

研究チームは、「強力な可逆的結合に非生理的な条件を必要とする従来のハイドロゲルとは異なり、キトサンの求核基によって中性で強固な結合を実現できた」と説明。

求核基はボロン酸とジオールの結合形成を促進し、組織培養において重要となる動的な再配置を可能にすると同時に、構造的な完全性をもたらすとしています。

結着剤に頼らず霜降りを再現


培養肉開発における主要な障壁の一つは、従来の食肉の外観と口当たりを模倣した霜降り構造を再現することでした。

現在の生産モデルでは、筋細胞と脂肪細胞を一緒に培養するのは、それぞれの培養条件が異なるため困難が伴います。別々に培養して後から組み合わせることもできますが、それには結着剤を要する場合が多く、添加物に頼ってしまうためこちらも好まれません。

今回作製された新しいハイドロゲルは、ボロン酸-ジオール間の結合と水素結合という二重の可逆的ネットワークを介して自己組織化を行うことで、両方の問題を解決します。

ハイドロゲルのテストでは、さまざまなタイプの組織を支持するのに十分な高い圧縮強度と耐久性を持っていると判明。

このシステムを用いて、研究チームはいずれもマウス由来の脂肪前駆細胞(3T3-L1)筋芽細胞(C2C12)を、それぞれに合わせて調整したハイドロゲル内での培養に成功。柔らかいハイドロゲルは脂肪細胞の増殖と分化を促し、より硬く調整した足場は筋組織に適していました。

ウシの筋細胞でプロトタイプを作製


研究チームはまた、市販の培養牛肉に一歩近づけ、ウシの筋肉に由来する初代細胞を用いて同じアプローチで検証を実施。28日間の増殖と分化の後、成熟した筋組織と脂肪組織を組み合わせて、1cm大の培養肉のプロトタイプを作製しました。

筋細胞を食品用色素で赤く着色したところ、着色のない脂肪細胞の霜降りを確認。天然の霜降り肉の構造を忠実に模倣できていたといいます。

さらに、調理特性のテストでも構造的な完全性を保ち、食感は血管構造を欠いているベーコンに似ていたとのこと。栄養成分の分析結果は、重量ベースで筋肉64.5%、脂肪35.5%。タンパク質は約10%、脂肪は約19%で、そのうちの70%近くが不飽和脂肪酸と、通常の食肉における割合と一致しています。

ボロン酸の使用に起因するホウ素含有量に関する懸念についても、定量分析と規制の両面から検討されました。ホウ素の総含有量は重量ベースで0.07%未満にとどまり、ホウ酸換算でも食品安全上問題のない0.4%未満に相当。ホウ素の大部分は共有結合でキトサンに結合しており、通常の消費ではリスクを引き起こす恐れは低いとの結論です。

注目すべきは、培養した組織を5%のグルコース溶液に浸すと、構造的完全性を保持したままホウ素含有量がさらに減少すること。グルコースは、ボロン酸の結合と競合することでハイドロゲルの崩壊を誘発し、足場材の残存を最小限に抑えられる可能性も示しています。

この技術革新は、培養肉の生産やスケールアップにおける技術上のボトルネックに対処するために有望。「私たちの知る限り、これは霜降り培養肉の生産に自己修復性の足場技術を応用した最初の報告だ」と研究者らは述べています。

参考記事:Inha University researchers develop self-healing hydrogel for cultured marbled meat | PPTI News

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