英・エディンバラ大学の研究チームが高い分化効率を保つブタの脂肪細胞株を樹立、宇宙食への応用も視野に

英国・エディンバラ大学の一部で畜産学の研究を行うロスリン研究所(Roslin Institute)のチームが、効率的でスケーラブル、かつ安定した培養肉生産を実現するブタの脂肪細胞株を樹立しました。
業界最大のボトルネックを克服
『npj Science of Food』誌に掲載された研究結果によると、「FaTTy」と名付けられたこの新規細胞株は、卓越した一貫性をもって脂肪組織を効率的に産生できるとのこと。「食品製造、特に培養肉生産にとって非常に魅力的で、ゲームチェンジャーとなり得る資源」だといいます。
研究チームは、5頭の子豚から採取した幹細胞を増殖させていた際、そのうちの1つが遺伝子改変を行わずに事実上無限に増殖できる能力を獲得したのを発見しました。
培養脂肪の開発は、培養肉生産をコスト効率よくスケールアップするための鍵となる要素で、業界最大のボトルネックと指摘する向きもあるほど。
研究チームは、ほとんどの動物の幹細胞は、脂肪細胞を確実に生産する能力をすぐに失ってしまうと説明しており、最初の30〜40日間は20〜24時間ごとに細胞数が倍増するものの、徐々に速度が低下していくといいます。
一方、初期段階の幹細胞から生まれた「FaTTy」細胞は、57日間の培養で細胞周期が60に達した後でも増殖を続けることが可能。200回以上倍加する間、脂肪細胞への分化効率をほぼ100%維持しています。
宇宙飛行士の食料として活用できる可能性も
研究チームは、2次元培養と3次元培養の両方において、このような高効率で脂肪を分化させることができ、従来の豚脂肪に近い組成の再現に成功しました。健康に良い一価不飽和脂肪酸(オレイン酸など)の含有量はやや多く、逆に飽和脂肪酸は少なく抑えられています。
主任研究員のTom Throwerは、細胞が無限に増殖するだけでなく、脂肪に分化する能力を高い水準で維持している点を強調。「培養肉やその先の新たな可能性への扉を開く特別な発見ができた」と語っています。
ロスリン研究所は、新たに樹立した細胞株を商業利用する準備を進めている最中。すでに、この独自技術に関心を寄せる多くの企業が提携を希望しているといいます。
研究責任者のXavier Donadeu教授はまた、将来的に培養肉を宇宙飛行士の食料とする可能性についても言及しました。
持続可能な宇宙食への関心は急速な高まりを見せており、先月、インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)やクランフィールド大学などのチームは、地球外で精密発酵タンパク質を生産するための酵母を含む、完全自動の小型微生物ラボを打ち上げ。
打ち上げを実施した米国の宇宙開発企業SpaceXは、イスラエルの培養肉企業Aleph Farmsが採取したウシの細胞を使って、微小重力が筋組織の成長に及ぼす影響を調査したこともあり、Aleph Farmsは過去に国際宇宙ステーション(ISS)でも培養牛肉生産を成功させています。
参考記事:
Lab-grown fat cells offer promise for cultivated meat | The Royal (Dick) School of Veterinary Studies
Scientists Create ‘Game-Changing’ Cultivated Meat Tech That Could Feed Astronauts in Space
Roslin Institute develops stable pig fat cells for lab-grown meat | FoodBev Media
この記事へのコメントはありません。