CRISPR-Cas9を用いてブタ筋幹細胞株の樹立に成功、培養肉生産の効率向上に期待 —タイ・スラナリー工科大学

タイ・スラナリー工科大学の研究チームが、ゲノム編集技術「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)」を用いてブタの筋幹細胞株を樹立することに成功しました。
TP53遺伝子をノックアウトし成長を促進
『3 Biotech』誌に掲載されたこの研究は、持続可能な培養肉の生産に大きな進歩をもたらし、商用化に近づけられる可能性を秘めているとみられています。
研究チームは、長期の培養期間中に筋サテライト細胞の限られた寿命により有効性が低下するという、培養肉生産における重要な問題に取り組もうと試みました。
具体的なアプローチとして、細胞の成長を制御する役割を果たすがん抑制遺伝子として知られるTP53遺伝子を標的とし、CRISPR-Cas9技術を用いてこれを欠損(ノックアウト)させた複数のクローンを作製。
すると、これらのクローン細胞はいずれも、従来の筋細胞と比べて著しく長い寿命を記録し、業界の主要な障害の一つを効果的に克服できることが示されました。
腫瘍形成の懸念も、安全性評価が鍵に
TP53ノックアウト細胞は寿命が延びたばかりか、成長速度が速くなり、継代すると増殖スピードを評価する指標となるタンパク質「Ki67」の発現が増加しました。
重要なのは、これらのクローン細胞が、筋細胞の中で特異的に発現するタンパク質を産生する能力を維持していたことで、これは培養肉の品質と真正性を保つ上で鍵となります。
研究結果は概ね有望でしたが、同時に安全性に関して考慮すべき重要な点も浮き彫りになりました。ほとんどのTP53ノックアウト細胞は正常な挙動を示し、腫瘍形成の兆候は示さなかったものの、2つの細胞では潜在的な腫瘍形成能を持つ懸念が生じたとのこと。
この事実は、強化された細胞機能のメリットと消費者の安全とのバランスをとりながら、食品としての徹底した安全性評価が必要であることを強調しています。
培養肉の商業化が実現しつつある中、高品質の筋組織をより効率的に生産できる細胞株は、極めて重要といえるもの。持続可能で倫理的なタンパク源に対する消費者需要の高まりに応える上で、重要な役割を果たせると期待されています。
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