培養肉生産のコストダウンに必要な4つの重点分野を特定 —米Ark Biotechレポート

培養肉メーカー向けに工業規模のバイオリアクター、オペレーションシステム、サービスなどを提供する米Ark Biotechが、技術経済性分析(TEA)のレポートを公表。培養肉生産において、従来の肉と同等の価格を迅速に実現するために注力すべき、4つの重点分野を特定しています。

4つの重点分野すべてにおいて前進が必要


同レポートでは、現在の生産方法で実現できる培養肉の最低売上原価を、1ポンド29.5ドル(1キロ約8,910円)と試算。

米国農務省(USDA)によると、食料品店で購入できるTボーンステーキの価格は1ポンド9ドル(1キロ約2,720円)、ひき肉は1ポンド6ドル(1キロ約1,810円)程度であるため、これらと比較すると高価な価格にとどまっているのが現状です*1

Ark Biotechは、生産面の制約が、培養肉の普及を阻む主な障壁となっていると主張。そして、これらの制約をクリアするため、培地コストの削減生産収率の向上バイオプロセスの最適化資本支出の削減の4つを重点分野として挙げています。

まずは、現在の培養肉生産コストの70%強を占める、培地について。このコストを下げるためのソリューションとしては、培地の原材料や調達のコストを下げること、同じ量の培地で培養できる細胞量を増やすこと、培地を再利用することなどが考えられます。

それに加えて、全体的な生産収率を向上させること、細胞に培地を供給する方法(バイオプロセス)を最適化すること、より大きなバイオリアクターを用いることで資本支出を削減することも求めています。

同レポートでは、培養肉が従来の肉と同等の価格に近づくには、上記4つの重点分野すべてにおいて前進が必要と結論。生産性を向上させるための細胞株の強化など、技術面の詳細に言及した提案を行っています。

生産規模・方式ごとのシミュレーションを実施


Ark Biotechの分析は、製薬業界における細胞培養の実績をベースラインに据え、より大きなサイズのバイオリアクターとさまざまな生産方式(バッチ式、フェドバッチ式、灌流式、連続式)を用いた、大規模生産の場合の売上原価をシミュレーションしているという点で際立っています。

生産規模では、通常考慮される1万トンよりはるかに大きい、年間5万トンを超える生産能力を想定。バイオリアクターのサイズについても、ほとんどの研究で最大25,000〜25万リットル程度の検討にとどまっているところ、最大100万リットルのモデルを作成しました。

また、生産方式別で見た場合に最もコスト効率が良いのは、フェドバッチ式*2 または連続式とのこと。ほとんどのケースでフェドバッチ式が優れているものの、連続式では設備投資および設置面積が小さく済むという利点があるとされています。

結論として、これら生産技術の最適化により原価を改善させる余地は十分にあり、培地生産のスケールアップやバイオリアクターの大型化、技術革新によって製薬業界の実績を上回ることも可能であるとしています。

*1 https://www.ams.usda.gov/mnreports/lswbfrtl.pdf
*2 培養途中で栄養分を添加して、栄養を枯渇させずに細胞を増殖させる手法。流加培養とも。

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