イスラエルのPluriが細胞培養コーヒー事業に参入、新会社立ち上げで「2050年問題」解決の一手に

イスラエルの細胞農業企業Pluri(旧称:Pluristem Therapeutics)が、新たに細胞培養コーヒー事業の立ち上げを発表しました。気候変動関連の課題に対処するべく、大規模生産に焦点を当てた子会社としてスピンアウトさせる計画です。

コーヒー業界を脅かす「2050年問題」


コーヒーの栽培は環境の変化に弱く、気温の上昇や降雨量の減少などにより生産量が大幅に減少する恐れがあります。

世界規模で進行する気候変動を食い止めることができなければ、アラビカ種の栽培に適した耕地が2050年までに半減する可能性があるばかりか、コーヒー種の少なくとも60%が絶滅の危機にあるとも指摘されるほど。これは「2050年問題」と呼ばれ、中南米やアフリカの産地を悩ませる深刻な懸念事項となっています。

またその逆に、コーヒー生産が広範な森林伐採や大量の温室効果ガス排出を招き、気候変動の一因となっているという現状も。

いずれにしても、日々何気なく飲んでいる一杯が見えないところで脅威にさらされているにもかかわらず、今世紀半ばまでにコーヒー需要は3倍以上に増加するとみられ、将来にわたって安定した供給を続けていくためには解決策が必要な状況です。

代替コーヒー分野の3カテゴリー


このような状況下で、参入するスタートアップ企業の数にも増加が見られる代替コーヒーの分野ですが、大きく次の3つのカテゴリーに分けられます。

まず1つ目は、植物由来の原料を用いた「ビーンレス」コーヒーのアプローチ。オランダのNorthern Wonder、米国のAtomo CoffeeVoyage FoodsCompound Foodsなどが、ルパン豆、ひよこ豆、キャロブ、ブドウの種、チコリ、ナツメヤシの種などを原料に用いて開発を進めています。

2つ目が、フランスのAmateraのような、自然な遺伝的変異を誘導して気候変動に強い多年生コーヒーを開発する企業。

最後に3つ目が、培養肉生産と同様に、植物細胞を培養してコーヒーの生産を目指す企業です。ここには、フランス・パリに拠点を置くSTEMや、米国のCalifornia CulturedVTTフィンランド技術研究センター(VTT Research Centre of Finland)などが含まれます。

環境影響の小さい培養コーヒー


イスラエルのPluriはこのたび、上記3つ目のカテゴリーに新しく参入。同社は2022年、イスラエル最大の食品メーカーTnuvaとの合弁でEver After Foodsを設立し、特許取得済みのバイオリアクターを用いたコスト効率の高い培養肉生産プラットフォームを開発しました。

この技術を細胞培養コーヒーにも応用した同社は、1,300億ドル(約19兆5,000億円)規模のコーヒー業界に「革命を起こす」べく、ロブスタ種と並んで世界的に消費される主要なコーヒー、アラビカ種の細胞培養バージョンを開発。

従来のように畑を必要としない細胞培養コーヒーは環境への悪影響を回避できると主張しており、水使用量を98%、土地利用面積を95%削減できると算定。コスト効率の良い生産手法で従来のコーヒーと同等の価格を実現し、同時に価格の安定も保証するといいます。

B2Bサプライヤーとしてスピンアウトを計画


生産プロセスとしては、植物の葉などから生検を1回行って細胞を抽出し、コーヒー細胞の細胞バンクを作成。バイオリアクター内で糖分を与えて大規模に増殖させた後、細胞を収穫・乾燥させたバイオマスを、損傷を与えないような手法で焙煎します。

PluriのCEOを務めるYaky Yanayによると、コーヒーの木から収穫できるのは年2回なのに対して、培養コーヒーはわずか3週間ほどで生産が完了するとのこと。

見た目や香り、味は、スーパーマーケットで購入できる挽いたコーヒーと同じで、バイオリアクター内の条件を変えることで、最終製品のカフェイン量などのパラメータを調節することも可能だといいます。

同社はこのプロジェクトを、B2B事業に焦点を当てた子会社「PluriAgtech」としてスピンアウトさせる予定。消費者向け製品の開発ではなく、コーヒーメーカーとの提携により市場投入を進めていく計画です。

参考記事:
TRANSFORMING THE COFFEE INDUSTRY – pluri-biotech.com
Real coffee, without beans? Pluri probes plant cell culture potential
Pluri Launches Cell-Based Coffee with Industrial-Scale Production
Israel’s cell-based coffee: Sustainable solution to industry challenge? – The Jerusalem Post

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