米Brown Foodsが、細胞培養により生産した世界初の「全乳」を発表

Y Combinatorが支援する米国・ボストンのスタートアップ企業Brown Foodsが、牛の細胞を培養することですべての成分を再現した全乳「UnReal Milk」を発表しました。
細胞培養による「全乳」の開発は世界初
Perfect DayやRemilkのような企業が、精密発酵により牛乳を構成する特定の乳タンパク質のみを生産しているのに対し、Brown Foodsのアプローチは、牛の乳腺細胞を培養して牛乳の組成全体を再現するもの。
これにより、従来の乳製品に等しい官能的・機能的特性を持つ、既存の代替品とは一線を画した製品の実現を目指します。
第三者機関が行った分析により、「UnReal Milk」には各種カゼインや乳清(ホエイ)タンパク質を含む主要成分、乳脂肪、炭水化物の99%が含まれており、従来の牛乳と構造的にほぼ同一であることが確認されました。
持続可能性の点でも優れており、従来の酪農に比べて生産に係るCO₂排出量を82%、水の使用量を90%、必要な土地を95%削減できると推定されています。
共同創業者でCEOのSohail Guptaは、この同じ技術を使えば、ヒトを含むあらゆる哺乳類のミルクを生産することが可能とし、「市場の可能性は、牛乳のほかにもバターやチーズ、ヨーグルト、ひいては医薬品や化粧品産業にまで広がっている。将来的には、気候の厳しい土地や災害の被災地、宇宙空間など、あらゆる場所における食料安全保障の問題にも及ぶだろう」と構想を語っています。
年内のテスト実施に向け品質改善に注力
Brown Foodsは、2021年の創業以来、合成生物学とバイオプロセスエンジニアリングの豊富な専門知識を持つチームを擁し、急速な発展を遂げてきました。
現在までに、AgFunderやCollaborative Fundを含む著名な投資家から236万ドル(約3億4,900万円)のシード資金を調達。CEOのGuptaは、ほかのスタートアップ企業が倍以上の時間をかけて取り組んできたことを、わずか3年で達成できたと主張しています。
コンセプトの実証を完了した同社は現在、年内の消費者テスト実施に向け生産工程の改良に注力。細胞培養に用いる液体培地の残留を完全になくし、最終製品の品質向上を狙います。また、人工知能(AI)を採用したバイオプロセスの最適化により、市場投入を早める道を探っています。
Guptaは酪農業界の問題として、農場での牛の飼育が世界のメタン排出量の30%を占めていること、サプライチェーン上で汚染が生じることを指摘。さらに、気候条件に左右されるため生乳生産量を容易に調整できず、新型コロナ禍でサプライチェーンが混乱した際も、生乳生産を一時停止することは不可能でした。
UnReal Milkは、スケーラブルで持続可能なアニマルフリーの代替品となることで、こうした数々の問題に対処することを目指しています。
培養ミルク開発スタートアップの動向
培養ミルクの開発を手掛けるスタートアップ企業は、少ないながらも存在します。ドイツのSenaraは、動物から検体を採取する代わりに、牛乳から最適な細胞を調達する手法を開発。牛以外にも羊やヤギなど、さまざまな動物細胞の効率性を試しています。
カナダのOpaliaは昨年、大手の乳製品・乳原料サプライヤーHoogwegt Groupから資金を調達しました。
イスラエルのWilk Technologiesは、個々の原料に焦点を当て、チーズやヨーグルトの原料となる培養乳脂肪の生産に注力。2022年に、これを原料に用いたヨーグルトを発表しています。その後ヒト母乳にも焦点を当て、高齢者向けの医療食を開発するためPluriと提携しました。
フランスのNūmiは、乳児用のヒト母乳の生産を開拓。1,500以上の成分から構成されるという母乳を、可能な限り再現しようと努めています。
参考記事:
First Lab-Grown Whole Cow’s Milk To Debut In The U.S.
Brown Foods unveils lab-made whole cow’s milk | The Cell Base
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