宇宙飛行士の食料問題解決に向け、英ICLなどが精密発酵の可能性を探る宇宙ミッションを実施

インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)、クランフィールド大学、宇宙技術企業のFrontier SpaceとATMOS Space Cargoの研究チームが、小型の実験室を宇宙に向けて打ち上げ、地球周回軌道に乗せる実験を行いました。
この実験室には、食用のタンパク質、医薬品、燃料、バイオプラスチックなどの素材を宇宙で生産するよう遺伝子操作を施した微生物が積まれています。
宇宙での物資調達という課題を解決
有人宇宙探査が拡大するにつれ、宇宙で効率的に食料を生産する必要性がますます高まっています。
宇宙飛行士のために食料や水、燃料を地球から輸送するのは、大変なコストがかかり非効率。ICLによると、宇宙飛行士1人に食料を供給するのに、1日あたり最大2万ポンド(約380万円)かかるとの試算もあるほどです。
この問題の潜在的な解決策として期待されているのが、遺伝子組み換えを施した酵母を用いる精密発酵の技術。宇宙でこの発酵を行うことで、必要不可欠な物資を現地調達できる可能性があります。
今回のミッションは、今月21日に欧州初となる帰還型の商業宇宙船「Phoenix」に搭載され、米SpaceXにより打ち上げが行われました。
Phoenixは、地球周回軌道を1周した後帰還し、ブラジル沖約2,000kmの地点に着水したとのこと。微生物サンプルは分析に回され、微小重力や宇宙輸送、長期保存が微生物の資源生産能力に及ぼす影響について調査される予定でしたが、ATMOS Space Cargoの報告では、着水地点が伸びたため回収は計画されていないとなっており、詳細は不明です。
微小重力下でも高度な実験が可能に
このプロジェクトを率いるICLバイオエンジニアリング(生物工学)学科のRodrigo Ledesma-Amaroは、宇宙探査を巡る複雑な課題に取り組むためには、学術界と産業界の協働が不可欠と指摘。
「ほんの一握りの培養細胞が、自由に利用できる資源を使って食料から医薬品、燃料、バイオプラスチックなどすべてを供給することができれば、未来に一歩近づけるだろう」と語っています。
Ledesma-Amaroは、ICLに昨年設置された代替プロテインセンター「Bezos Centre for Sustainable Protein」および「Microbial Food Hub」で、環境に優しく、栄養価が高く、手頃な価格の代替食品の開発を主導してきました。
宇宙における食料生産の研究も、従来の食料源に代わる持続可能でスケーラブルな代替品を探求する、より広範な取り組みの一環となっています。
今回のミッションを行う上では、Frontier Spaceが開発した技術「SpaceLab Mark 1」が鍵となっているとのこと。この技術革新により、研究者は微小重力下でも高度な実験が可能になり、宇宙を拠点に行われる研究に対する従来の障壁の多くを克服できるといいます。
このような実験から得られる知見は、宇宙探査にとどまらず、宇宙ものづくりや製薬研究といった広範囲に影響を及ぼす可能性も。欧州宇宙機関(ESA)やSpaceXは、宇宙で培養肉や微生物タンパク質を生産する可能性を探求しており、関心の高まりが見られます。
参考記事:
First microbes blast off testing production of food for space travel | Imperial News | Imperial College London
SpaceX launches European reentry capsule on ‘Bandwagon-3’ rideshare mission | Space
MISSION COMPLETION UPDATE – ATMOS Space Cargo
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