グラスフェッドビーフは環境に悪影響?「消費者を欺く気候変動対策」との研究結果

学術誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に、グラスフェッドビーフ(放牧下で牧草だけを食べて育った牛の肉)が環境に優しいという従来の考えを否定する研究結果が掲載されました。

通常の牛肉と比べて気候変動への恩恵なし


栄養価の高さに加えて一般に気候変動への影響が少ないと謳われるグラスフェッドビーフ(米国の肉牛の5%程度)ですが、論文の筆頭著者となっている米バード大学の環境物理学教授Gidon Eshelは、これを「購買決定が自身の価値観を反映することを切に望んでいる人々の大部分」を惑わすものと主張。

新たな研究によると、穀物飼料で飼育された通常の牛肉と比べて気候変動への恩恵はなく、最も楽観的なシナリオの下でさえグラスフェッドビーフの排出量は10〜25%多くなりました。

さらに、ほとんどの植物性・動物性代替食品の3〜40倍炭素集約度(エネルギー消費量あたりの温室効果ガス排出量)が高く、一般的な食品の中で最も資源集約的であるとの結果に。

牛の放牧は土壌の炭素固定を促進するため、その過程で生産による排出が相殺されるとの主張もありますが、研究チームはその根拠は決定的なものではなく、仮にそうであったとしても牛肉の炭素集約度を逆転させるほどのインパクトはないと結論付けました。

グラスフェッドビーフは、同じ量の肉を生産するのにより多くの土地が必要となるため、生産効率が悪化。さらに、本来なら炭素を貯蔵できるはずの土地が、牛肉生産用の牧草地を確保するために伐採されることにもなり、環境に悪影響を及ぼすとされています。

農業におけるスプロール現象の主要因


研究チームによると、牛肉の生産が食品産業における資源利用の大部分を占めているにもかかわらず、米国におけるタンパク質摂取量(カロリーベース)のわずか5〜20%にしか寄与していないとのこと。

中でもグラスフェッドビーフは、植物性タンパク質と比べて、CO₂排出量1kgあたり最大でも10分の1のタンパク質しか得られず、「競争力のある資源利用形態とはいえない」としています。

実際、農地由来の牛肉を植物性タンパク質に置き換えるのは「はるかに環境に良い」と著者らはいい、どんな種類の牛肉であれ地球に良いものではないことを強調。

グラスフェッドビーフがグリーンウォッシュの元凶であると示した研究はこれが初めてではなく、2023年に『Plos One』誌に掲載された論文でも同じ結論が出されています。

環境ジャーナリストのGeorge Monbiotは、グラスフェッドビーフの生産を「農業におけるスプロール現象の主要因」と呼び、擁護派を激しく非難したことで有名。

「世界の都市部が占める面積は地球上の土地のわずか1%に過ぎないが、放牧に使われている土地はすでに26%に上る。農業のスプロール化は、本来存在するはずの生態系が失われるという、生態学的に見て非常に大きな機会費用をもたらしている」と、2022年に『The Guardian』誌に書いています。

参考記事:
Study: Grass-Fed Beef is Up to 40 Times More Carbon Intensive Than Other Proteins
Grass-Fed Beef A Deceptive Climate ‘Solution’ That Misleads Consumers, Confirms New Study
Your grass-fed burger isn’t better for the planet, new study finds – The Washington Post

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