イスラエルのAsterix Foodsが約6.4億円を調達、安価な植物細胞培養でタンパク質生産の変革を狙う

イスラエル・テルアビブに拠点を置くフードテック企業のAsterix Foodsが、シードラウンドで420万ドル(約6億3,900万円)の調達を行ったと発表しました。
これをもって同社はステルスモードから脱却し、食品・バイオテクノロジー分野に不可欠な生理活性タンパク質の生産変革に注力します。
精密発酵に比べて高いコスト効率を実現
Asterix FoodsのシードラウンドはCPT Capitalが主導し、ReGen Ventures、SOSV、Grok Ventures、政府機関のイスラエル・イノベーション庁(Innovation Authority)が追加出資を行いました。
従来の手法、特に精密発酵による生理活性タンパク質の生産には、高コストという問題がつきものでした。発酵には通常、多額の設備投資が必要で、施設全体では費用が1億ドルを超えることも珍しくありません。
Asterix Foodsは、より効率的な解決策として、安価なモジュール式バイオリアクターの内部で行う植物細胞の懸濁培養システムを採用。遺伝子操作を伴う複雑な微生物発酵の必要性をなくし、生産コストの大幅な削減に成功しました。
このシステムは、従来の発酵プラントと比較して設備投資を95%以上削減できることに加えて、省エネルギーを実現。精密発酵の微生物が約3時間で倍加するのに対し植物細胞は10~15時間を要するものの、室温での培養が可能です。
同一ラインで複数のタンパク質を生産でき、基本的に年1、2回の滅菌しか必要とせず連続運転できるのも特長。精密発酵の場合、設備の保守・滅菌・洗浄に充てられる時間が多く発酵工程は年間30~40%程度しか稼働しない可能性もある一方、Asterix Foodsのシステムでは年間を通じて1カ月程度のダウンタイムしか発生しないと試算されています。
さらに、植物細胞は比較的汚染を受けにくいため、微生物発酵に通常必要とされる専用の高価なクリーンルームも不要となります。
メーカーへのライセンス供与も視野に
植物細胞を培養するAsterix Foodsの技術は、複雑な物質の生産においても優位性を発揮。単細胞である微生物の発酵では、糖タンパク質(ラクトフェリンやオボアルブミンなど)のような複雑なタンパク質の生成が困難ですが、植物は多細胞生物であるため、これらを生成できる細胞機構を自然に備えているといいます。
ワイツマン科学研究所で植物分子生物学と遺伝子工学を研究した経歴を持つCEOのDan Evenは、生理活性タンパク質が食品、栄養、健康といったさまざまな産業において重要な役割を果たすと指摘。「当社のシステムは、将来の生産施設がいかに迅速かつ柔軟に、そして劇的な低コストで展開できるかを示している」と述べました。
培養施設は、広大な土地や農地がなくても導入が可能。同社は現在、テルアビブの標準的なオフィスビル内にパイロット施設を運営しています。モジュール化された生産ユニットは段階的に拡張でき、最小限の初期投資で小規模生産を始められます。
この技術は特許出願中で、将来的には食品原料や乳製品のメーカーへのライセンス供与も視野に入れているとのこと。既存施設のすぐ隣に設置できるため、あらゆる現場にシームレスに統合できます。
投資を行ったSOSVのPo Bronsonによると、植物細胞の懸濁培養は、ワクチンから食品着色料まであらゆる製品を手掛ける少なくとも16のグローバル企業で採用されている技術。
「Asterix Foodsはこのプラットフォームをさらに進化させ、前例のないコスト効率と精度で代替タンパク質を生産する新たな可能性を切り開いている」と語っています。
参考記事:
Exclusive: Asterix Foods emerges from stealth to unlock ‘2nd wave’ of animal-free proteins in plant cell culture
Asterix Foods Raises $4.2M to Disrupt Protein Production with Affordable Plant Cell Technology
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