フランスのNutropyが約12.4億円の資金調達を実施、2027年の精密発酵チーズ発売を目指す

フランスの精密発酵スタートアップNutropyが、カゼインタンパク質の生産拡大に向け700万ユーロ(約12億4,000万円)の調達を行ったと発表しました。来年にかけてスケールアップを進め、2027年の認可取得と製品化を目標としています。
ヴィーガンチーズ市場のギャップを埋める
酪農家の数が急減する一方で、乳製品への需要は急増している昨今。世界の牛乳不足が2030年までに3,000万トンに達する可能性があるとも推計される中、ヴィーガンチーズのような植物由来の代替品は、依然として消費者に受け入れられるには至っていません。
Nutropyは、精密発酵技術による乳タンパク質生産でこのギャップを埋めることを目指して、味・栄養・持続可能性の期待を同時に満たす乳製品の開発を支援するソリューションを提供しています。
同社が行った最新の調達ラウンドは、Big Pi VenturesとZero Carbon Capitalが主導し、既存の支援者であるBig Idea Venturesのほか、複数の新規投資家が参加しました。
Nutropyはまた、欧州およびフランスの公的プログラム、特に国営投資銀行Bpifranceからの支援も獲得。2022年のプレシードラウンドに続いて累計調達額は1,000万ドル(約15億3,000万円)を突破し、今回得た資金は、事業拡大と食品メーカー向けの大規模なサンプル供給に充てられます。
4種類のカゼインを必要とせずにミセルを形成
Nathalie RollandとMaya Bendifallahが2021年に設立したNutropyは、乳製品に含まれる主要なタンパク質で、チーズの溶けや伸びといった特性に関与するカゼインに着目しました。
牛乳に含まれるものと全く同一のカゼインタンパク質を生産するよう、微生物(種類は非公開)をプログラム。バイオリアクター内で微生物に糖類その他の栄養素を与えて培養し、微生物が培地中に分泌したカゼインを回収します。
牛乳には4種類のカゼインタンパク質が含まれ、これらは自己組織化して「ミセル」と呼ばれる球状の構造を形成しています。
一部の精密発酵スタートアップ(Eden Brew、DairyX Foodsなど)では全種類の開発に取り組んでいるケースも見られますが、Nutropyは、4種類すべてについて研究を実施した後、現在は一部の大規模生産にのみ注力。
Bendifallahによると、ミセルはチーズの口当たりや特性を生み出すのに不可欠ですが、「ミセルの形成に4種類のカゼインすべてが必須というわけではない」とのこと。
「当社ではミセルを機能性カゼインの凝集体と定義しており、これはミセルとしての目的を果たすものの、必ずしも4種類のカゼインが本来の比率で含まれるわけではない」と説明しています。
廃棄物の大幅な削減もメリットに
回収されたカゼインタンパク質に機能化を施して、ほかの植物由来原料と混合すると、Nutropyが「チーズ化可能なミルク(cheeseable milk)」パウダーと呼ぶ製品が生み出されます。
この原料は、水と混ぜると牛乳と同様の性質を示し、牛乳の代替により廃棄物を大幅に削減できるというメリットがあるとのこと。
従来、牛乳からチーズを作る過程では大量の乳清(ホエイ)が副産物として発生し、メーカーに処理の負担がかかっていました。一方、Nutropyの製品はより効率的で、既存の設備で凝固させてチーズ製造が可能です。
同社はチーズを初めのターゲットに設定し、フランス初にして最大のバイオクラスターであるGenopoleで研究開発を実施。2026年には外部パートナーと共同でスケールアップを図り、実証規模での産業用プロトタイプ生産を開始する予定です。
市場としては北米、欧州、特定のアジア諸国、中東と広い範囲を見据えており、優先順位は明らかではありませんが、CEOのRollandは「2027年までに最初の販売認可を取得したい」と目標を示しています。
参考記事:Exclusive: With $8M In Funding, France’s Nutropy Eyes 2027 Launch of Animal-Free Cheese


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