欧州宇宙機関(ESA)が宇宙での食料自給に向けて、培養肉生産の可能性を調査
長期的な宇宙でのミッションを遂行する上で大きな課題の一つが、宇宙飛行士に健康的で持続可能な食料を提供する方法を見つけ出すこと。この課題に取り組むため、欧州宇宙機関(ESA)が2つの研究チームを支援し、宇宙での培養肉生産の可能性について調査を行いました。
英国とドイツの研究チームに資金提供
ESAの主な目標は、培養肉、すなわち本物の動物細胞をバイオリアクターで培養した食肉が、消費するその場で生産可能なタンパク源として、宇宙で実行可能な選択肢となるかどうかを見極めることでした。
この1年間、ドイツ企業のyuriとロイトリンゲン大学、英国のKayser Space、Cellular Agriculture、Campden BRIからなる選抜チームがESAからの資金援助を受け、このアイデアをさらに発展させるべく調査を実施。
培養肉は、従来の肉と同じフレッシュな食肉をその場で生産する機会を提供します。ESAのエンジニアPaolo Corradiは、「地球から遠く離れた長期のミッション中に、宇宙飛行士に栄養価の高い食料を提供すること、そして従来の包装された物資で一般的な2年の賞味期限を上回ることが目標」と説明。
宇宙での資源が限られていることを考えると、新鮮な食料をその場で培養し自給自足を行うことは、クルーの心理面での健康にもつながるといいます。
宇宙で食料を自給自足するアイデア
これまでにも宇宙で食料を自給するアイデアの実現に向けた研究は行われており、古くは1960年代にNASAが水素細菌(自然環境中に存在する一般的な微生物)を使って、CO₂をタンパク質に変える研究を実施。
宇宙開発競争のさなかに行われたこの研究は、その後長らく忘れ去られていましたが、半世紀以上経った今再発見され、米Air Proteinが空気由来の代替プロテインを開発した技術のベースとなっています。
近年では、2018年の「Horizons計画」でも宇宙で藻類を育てる方法が模索されていました。また、イスラエル企業のAleph Farmsは2019年、3Dプリント技術と組み合わせることで国際宇宙ステーション(ISS)での培養肉生産に成功しています。
今回、英国とドイツの両チームはそれぞれ独自に研究を進め、植物や藻類など既存の代替プロテイン食品と培養肉を、栄養価の観点から比較。それぞれに異なる培養肉生産手法とバイオリアクターの技術を前提に、研究を行いました。
その結果、両チームとも同様の結論に達したといい、「宇宙で培養肉を生産するというアイデアは決して突飛なものではなく、さらなる研究が必要であることを示唆している」とCorradiは述べています。
宇宙で生命を維持するシステムを応用
ESAはまた、宇宙船内でのバイオプロセスと代謝資源利用を改善する技術の開発にも取り組んでいます。ESAのエンジニアで培養肉プロジェクトの一員でもあるChristel Pailleによると、ESAは「先進的な生命維持システムの研究に多大な労力を投じている」とのこと。
「例を挙げれば、栄養分を回収して代謝廃棄物を再利用することで生命維持を図る、クローズド・ループ・システムのプロトタイプを地上で作成しており、これは培養肉生産において細胞に与える栄養培地の回収にも応用できる」としています。
この方法で宇宙飛行士に食事を提供できるようになるまでには、まだいくつものステップが必要になります。今回の研究では、必要な技術を進歩させ、現在の知識のギャップを埋めるために必要なステップをまとめたロードマップも作成。
これには、変化する重力や放射線に細胞がどのように適応するかを理解することも含まれ、ESAで利用可能な施設を用いた実験が間もなく開始される予定です。
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