植物性食品のラベル表示論争に新展開、EU最高裁がフランスの禁止令制定を阻止
欧州連合(EU)の最高裁にあたる欧州司法裁判所(以下、ECJ)が、植物性代替肉製品の表示に「肉を想起させる表現」の使用を禁止するフランス政府の政令を却下する判決を下しました。
EU加盟国においては今後、企業は製品ラベルに「ベジバーガー」「植物性ソーセージ」「ヴィーガンベーコン」といった用語を自由に使用でき、各国政府による禁止措置の導入は原則認められません。
植物性食品メーカーにとっての大きな勝利
ECJの裁決は、フランス政府が昨年9月に制定した政令案に直接対応したもの。畜産業界からの要請を受けて制定されたこの政令には、植物性代替肉のパッケージに食肉関連用語を使用させないことで、既存の食肉業界を保護する意図がありました。
しかしその後、欧州ベジタリアン連合(以下、EVU)とフランスベジタリアン協会(Association Végétarienne de France)が提訴したことを受け、フランス国務院(Conseil d’État)は政令を一時停止。
訴訟の一部の判断をECJに委ねていましたが、ECJは今月、禁止措置を却下し、紛争をフランス国内に差し戻しました。
EVUのEU政策マネージャーを務めるRafael Pintoは、「このような禁止措置は、消費者の混乱を拡大させ、最終的には自らの首を絞めることになるだろう。加盟国政府のこうした動きを抑止するECJの出した結論は、極めて意味のあるものだ」とコメントしています。
禁止措置には法的な定義付けが必要
ECJは、このような禁止措置は、加盟国が食肉製品とその関連用語を法的に定義した場合にのみ実施可能であり、その場合でも、禁止措置は当該国内で製造された製品にのみ適用されるとの見解を提示しました。
Pintoによると、「フランスのケースに限っていえば、今後この問題はフランスの国内裁判所に戻され、同政令が食肉や関連用語の定義を定めたものなのか、それとも単に植物性食品への使用を禁止したものなのかが判断される」とのこと。
「同政令は定義付けを行うほど詳細なものではなさそうだが、裁判所がどう判断するかは分からない」と述べています。
ECJが今回示した方針は、同時にEU域内の全政府の決定にも影響を与えるもの。昨年はフランスに限らず、イタリアでも同様の禁止措置が検討されていたこともあり、今後の成り行きに注目です。
加盟国レベルでの措置は分断につながる懸念
植物性食品の表示を巡る論争はここ数年世界中で続いており、禁止賛成派の主な主張は、「ベジバーガー」などの用語が消費者を混乱させるというもの。
しかしながら、大多数の消費者は植物性タンパク質と動物性タンパク質を明確に区別できており、混乱を招いているとはいえないことが複数の研究で示されてきました。Turtle Island Foods、Miyoko’s Creamery、Planted、Oatly、NotCoといった植物性食品メーカーは、いずれも製品表示をめぐる法廷闘争に勝利しています。
ECJの裁決も、既存のEU法が十分な消費者保護を提供していることを認めたものであり、これに反する追加的な国内規制は許容されません。前述した、法的な定義付けを行った場合の例外についても、長くて複雑なプロセスであり「EUレベルのハーモナイゼーションの問題」にまで発展する恐れがあるとPintoは指摘しています。
現在のところ、慣習的な定義や業界の推奨はあっても、法的な定義が確立されている国はありません。定義付けの動きがいくつかの加盟国で進んだ場合、文化や言語の違いから定義が一致しない可能性があり、結果として従来の食肉と植物性代替肉の両方で名称の異なる製品が同じ市場に出回るという問題が生じる恐れもあるでしょう。
この点について、「EU単一市場の分断につながり、競争力を低下させ、かえって消費者の混乱を招くことになる」との懸念が示されています。
なお、植物性代替肉への禁止措置はかつてEU全域でも検討されたものの、2020年に欧州議会により却下された過去があります。代替乳製品については、ECJが2017年に真逆の判決を下しており、現在のところピーナッツバターやアーモンドミルクなど一部の例外を除いて、乳製品関連用語の使用は禁止されている状況です*。
Pintoによると、これは「乳製品とみなされるものの定義を定めた、EUの伝統的な規則があるため」。この禁止措置が覆されるためには、EUの法律自体が変更されなければならないとのことです。
* その後、EU各国の国内裁判所で、「alternative to yoghurt(代替ヨーグルト)」、「cheese-style(チーズ風)」、「creamy(クリーミー)」などの表現は使用可能であることが確認されている様子(GFI Europe)。また、牛乳パックやヨーグルトカップなど、同じ容器の使用は認められている。
参考記事:
Food labelling: where no legal name has been adopted, a Member State may not prohibit the use of terms traditionally associated with products of animal origin to designate a product containing vegetable proteins
The Veggie Burger Debate: EU Court Blocks France’s Attempt to Ban Meaty Names On Plant-Based Food Labels
EU top court rules in favour of veggie burgers, vegan sausages in labeling dispute | Euronews
EU court blocks French ban on vegetarian ‘steak’ labeling
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