緑豆タンパク質と微細藻類を用いてイカリングの3Dプリント生産に成功 —シンガポール国立大学

シンガポール国立大学(NUS)の研究チームが、本物のイカの食感とタンパク質含有量の両方を忠実に模倣した植物由来のイカリングを、3Dプリンティングにより製造することに成功しました。
研究結果が『ACS Food Science & Technology』誌に掲載されています。
緑豆タンパク質と微細藻類のインクを作製
世界のヴィーガン食品市場は、2022年の165億5,000万ドル(約2兆4,500億円)から、2030年には374億5,000万ドル(約5兆5,400億円)へと2倍以上に拡大すると予想されているものの、植物由来のシーフードは植物性食品全体の1%にも満たず、依然として未開拓のカテゴリーとなっています。
研究チームは、乱獲や海洋汚染といった懸念の高まりに対処するイカの代替品を作るため、現在それほど利用が進んでいない2つの持続可能なタンパク源、緑豆と微細藻類を組み合わせました。
緑豆から抽出したタンパク質とビーズ状に粉砕した微細藻類バイオマスを組み合わせて、3Dプリンティング用の「インク」を作製。この混合物を3Dプリンターにセットし、本物に極めて近いイカリングを精密に造形しました。
望みの食感を得るため、チームはゲランガム(食品用増粘剤)の濃度、脂肪分、微細藻類バイオマスの量をさまざまに変えて実験。広範なテストの結果、ゲランガム1.5%、脂肪分2%、微細藻類10%という最適な配合を導き出しています。
また、植物由来の混合インクが3Dプリンターのノズルをスムーズに通過し、その後も形状が維持されることを確認するため、詳細なレオロジー分析(材料がどのように流動し変形するかを測定するテスト)を実施しました。
この結果、インクはシアシニング(擬塑性)であること、つまりプリンターのノズルから押し出されるときのように圧力を加えると流れやすくなる一方、圧力がなくなると固化する性質が必要とされています。
代替シーフードの中でも不足するイカ製品
3Dプリントされたリングは、従来品と同じように衣をつけて揚げられました。上述のとおり、微細藻類を10%含むバージョンが硬さ、弾力性、まとまりの点で最も本物に近く、タンパク質含有量では19.6%と、従来品の14.2%を上回っていたとのこと。
しかしながら、微細藻類の濃度を20%に高めるとリングの構造的安定性(特に揚げている最中)が損なわれると分かり、製品の実用化までには技術的なハードルが残っていることが示唆されています。
緑豆はアジア全域で広く栽培されていますが、その加工に伴う副産物はしばしば廃棄物となっており、タイの緑豆デンプン産業だけで毎日約600トンの高タンパク廃水を生んでいるとの試算も。
この緑豆の再利用に微細藻類の栽培を組み合わせれば、廃棄物削減と脱炭素への取り組みを大きく前進させられる可能性があります。
2002〜21年の期間における調査では、伝統的なイカ製品が140種類あったのに対し、代替品として認められたのはわずかに4種類(うち3つがヴィーガン、1つはベジタリアン対応)にとどまっていました。
水産物の供給が環境要因による圧力に直面している今、このような技術革新は、海洋生態系への影響を軽減するのに役立つものと期待されます。
参考記事:Scientists Create 3D-Printed Calamari With More Protein Than Real Squid
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