可食性マイクロキャリアと3Dバイオプリンティングで、培養魚フィレの作製に成功 —中国海洋大学

中国海洋大学の研究チームが、可食性のマクロ多孔質マイクロキャリア(EPM)と3Dバイオプリンティングの技術を用いて、培養魚フィレの作製に成功しました。研究成果が『Nature Communications』誌に掲載されています。
多孔質足場で高密度の培養に成功
乱獲や気候変動、食料安全保障への懸念が高まる中、従来の養殖に代わる持続可能な生産手法として注目を集めている培養シーフード。しかしながら、食感や構造、栄養プロファイルを維持したまま生産を拡大することは、依然大きな課題として残っているのが現状です。
中国海洋大学のチームは、効率的に培養した魚の筋肉と脂肪細胞をバイオインクに構造化し、3Dプリントにより成形することで、従来の魚の食感と風味を忠実に再現した培養魚フィレの作製に成功しました。
研究で特に焦点が当てられたのが、ゼラチン* をベースとしたマイクロキャリアを最適化し、細胞の接着、成長、分化を改善すること。低温で架橋する際に塩化ナトリウム(NaCl)を導入する手法で、氷の結晶形成を制御して孔径を微調整し、高密度の細胞培養に適した多孔質の足場を作製しました。
この方法により、スズキ目の魚フウセイ(large yellow croaker)から採取した筋サテライト細胞で499倍、脂肪由来幹細胞で461倍という、大規模な増殖を達成したといいます。
* マイクロキャリアの原料となっているフィッシュゼラチンは、魚製品の加工から出た廃棄物(皮や骨など)をベースとしたもの。
課題はあるものの、商業生産の可能性も
成熟した筋肉と脂肪の微細組織を、エンドウ豆タンパク質と微生物由来のトランスグルタミナーゼ(MTGase)に混ぜてバイオインクを作製し、市販の3Dバイオプリンターで押し出して、長さ100mm × 厚さ15mmのフィレに仕上げました。
プリントされたフィレは、天然の魚の筋肉に似た層状のテクスチャーを持ち、調理するとメイラード反応により表面に焼き色がついたといいます。
分析の結果、このフィレは水分を保持(~70%)しており、調理時の重量減少も従来の魚と同等(~35%)ながら、食感を示す特性はわずかに低く、食品への構造化において改良の余地が残されていたとのことです。
栄養面では、天然魚と比べて脂肪は69%、コレステロールは88%含有量が減少した一方、必須アミノ酸は51%多く含有。100gあたり8.5gタンパク質が多く、オメガ3脂肪酸の量は一定でした。一方、風味化合物の分析では揮発性有機物の組成が大きく異なる結果となり、味と香りもさらなる最適化の余地が示されています。
スケーラビリティを試すため、研究チームが4リットルのバイオリアクターでテストを実施したところ、連続的な増殖サイクルで細胞生存率を80%以上に維持できたとのこと。
100リットルのバイオリアクターで1バッチあたり約750gの培養魚が得られると推定されており、商業生産の規模を実現できる可能性も。繊維の配列やバイオインクの組成、生産コストなどの微調整が、培養魚を市場に投入するための鍵となるものとみられます。
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