EV業界から学べる代替プロテイン成長のヒント —BCGレポート

ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)The Good Food Institute(GFI)Synthesis Capitalが新たなレポート「What the Alternative Protein Industry Can Learn from EV Companies」を発行しました。

電気自動車(EV)業界と比較した際の類似点・相違点を抽出し、そこから代替プロテイン業界が得られる教訓についてまとめられています。

代替プロテインの環境メリット


約10年前に登場し、動物性タンパク質に匹敵する味と、温室効果ガス排出量の削減を約束した代替プロテイン(代替タンパク質)ですが、現在のところは消費者の支持を得る上での難題に直面。

例えば、植物性代替肉は米国の小売りにおける食肉売上高のわずか1%に過ぎず、業界の多くのスタートアップ企業は民間資本市場の逼迫に直面しています。

それでも代替プロテインがもたらす環境上のメリットは特に大きく、世界のタンパク質消費の半分を従来の肉や乳製品に代わる代替品で賄えば、農業と土地利用から排出される温室効果ガスは、2050年までにほぼ3分の1に削減されると同レポートは試算。

「代替プロテインの大規模な採用を実現することは、排出量削減と気候変動対策を推進する上で見逃すことのできないチャンス」だとし、「業界内部に限らず政府や規制当局も、同じく初期の消費者受容の獲得と拡大に苦しみながら成功したEV産業から、多くの教訓を得ることができる」と述べています。

EVと代替プロテインの共通点


代替プロテインと同じく、EV業界も当初は消費者の信頼を得る上での障害を抱えてきました。主な懸念点として挙げられたのが、バッテリーの発火、比較的短い航続距離、充電インフラの不足、原材料の採掘と加工に関連する問題など。

一方の代替プロテインでは、特に植物性食品の加工の多さ原材料リストの複雑さなどが問題視されています。

また、両業界とも生産規模の拡大という課題に直面しているという共通点も。この上ではすでに市場での影響力を持つ大手企業が果たす役割も大きく、既存の自動車メーカーがEVに進出していったように、食品や農業関連の企業が製品ポートフォリオを多様化し、代替プロテインに投資することが求められます。

資金調達はEVと比べて小規模にとどまる


EVは自動車市場全体の5分の1近くまで成長を見せていますが、この躍進の背景には、政府の手厚い補助金と政策による支援、それに刺激される形でバリューチェーン全体に資金を提供した民間投資家の貢献がありました。

これに比して代替プロテインセクターが依然として小規模にとどまっているのは、特に政府の支援が不足していることが要因だといいます。 

国際エネルギー機関(IEA)によると、2022年に世界各国の政府が拠出したEVの直接購入補助金は約400億ドル(約6兆3,000億円)であったのに対し、代替プロテイン業界が同年に受けた政府支援の額は、わずかに6億3,500万ドル(約1,000億円)

また、代替プロテイン企業が2017〜23年にかけて調達した民間資本は、EV業界の8分の1に過ぎませんでした。

政府による支援の拡充が課題に


ドイツデンマークなど植物性食品の推進に積極的な国の存在や、米国、イスラエル、シンガポールのような国が培養肉の規制枠組みを早くから作ってきたことは前向きな動きといえるでしょう。

その一方で、植物性食品の表示に関する制限を導入する規制当局もあり、米国も州レベルでは培養肉の禁止に向かうなど、従来の産業を守ることに重点を置いた政策も目立ちます。

今後、代替プロテイン業界が経済的、環境的、また食料安全保障上のメリットを十分に発揮していくためには、各国政府が支援をさらに強化する必要があります。

GFIのEmma Ignaszewskiは、「EVは、消費者が行動を大きく変える必要のない強力な気候変動対策だが、代替プロテインも同じ。EVの技術革新に役立ってきた公的資金を確保することは、代替プロテイン業界の規模を拡大し、味と価格で従来の食肉と競争するためには不可欠だ」と語っています。

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