【2024年版】植物性食品業界の現状まとめ —GFIレポート

米国の非営利シンクタンクThe Good Food Institute(以下、GFI)が、代替プロテイン業界の現状をまとめた2023年版レポートを発行しました。

各セクターの商業的状況、投資動向、技術革新、政府と規制の動向に関する分析を提供するレポートの全文は、こちら(🔗GFIウェブサイト)から閲覧可能。

本記事では、植物性食品に関する部分の記載をベースに、2023年の動向と2024年の展望についてまとめています。

売り上げ減少に伴い、人員削減や事業停止が増加


植物性食品セクターは2023年、逆風と追い風の両方に見舞われました。一部の地域、特に新興市場を持つ地域では製品の流通が伸びた一方、インフレの続いた米国では、比較的割高な植物性食品の消費意欲が落ち込み、売り上げが減少。

米国だけで見ると、植物性食品の小売総売上高は昨年81億ドル(約1兆2,600億円)で、2022年の82億ドル(約1兆2,800億円)からわずかに減少していました。

売り上げと資金調達の減少が相まって、Plant & BeanTattooed ChefNowadaysなど、米国だけでも複数の企業が破産や営業停止に至っています。

世界全体では、植物由来の代替肉、シーフード、ミルク、ヨーグルト、アイスクリーム、チーズの小売総売上高は、昨年290億ドル(約4兆5,100億円)でした(卵については報告なし)。2019年の売上高(約3兆3,600億円)に比べると34%増となってはいますが、従来の動物性食品と比較すると、依然として小さな市場にとどまっています。

カテゴリー別で見ると、植物性代替肉は売り上げの大部分が欧州と北米で生まれているのに対し、植物性ミルクではアジア太平洋地域が圧倒的。ヨーグルトは欧州が最も大きく、チーズとアイスクリームは北米が最大の市場となっています。

政府投資は活発化するも、表示に関する議論が続く


植物性食品セクターへの民間投資は減少したものの、カナダ、デンマーク、ドイツなどの政府は同分野の研究に多額の公的資金を投入しています。

以前から植物性タンパク質市場の成長支援に積極的な姿勢を見せているカナダは、新たに1億5,000万カナダドル(約170億円)を拠出。欧州では、ドイツが2024年度の連邦予算で、代替プロテインの推進に記録的な3,800万ユーロ(約63億5,000万円)を計上しました。

デンマーク韓国は、植物性食品産業を推し進めることを定めた世界初の国家計画を、相次いで策定しています。

12月にドバイで開催された国連気候サミットCOP28では、気候変動対策としてフードシステムの変革に初めてスポットライトが当てられ、参加国の首脳陣には植物由来のヴィーガン食が振る舞われました。またその期間中、国連環境計画(UNEP)が代替プロテインのメリットをまとめたレポートを発行しています。

一方、昨年は植物性食品の表示に関する議論が活発になされました。フランスは、植物性代替肉製品のラベル表示に「ステーキ」「ハム」「グリル」などの用語を使用することを禁止する政令を発出。EU法への違反を巡って欧州司法裁判所(ECJ)に検討要請が出されています。

イタリアでも同様の法律が制定され(2024年2月に一時停止)、韓国でも上述の国家計画が策定された直後に「牛肉」「豚肉」「牛乳」「卵」といった名称の使用禁止が定められています。

大企業からスタートアップまで、製品開発例は多数


大企業による取り組みは継続して行われ、タイソン・フーズのナゲット、ネスレのひき肉とハーゲンダッツのアイスクリーム、クラフト・ハインツのスライスチーズなど、人気ブランド製品の植物性バージョンの発売が見られました。

北欧のバーガーキング、欧州のサブウェイ、英国のタコベル、マレーシアのスターバックスなど、世界の主要チェーンで植物性代替肉がメニューに登場しています。

カナダ企業Konscious Foodsは、世界初の植物性冷凍寿司シリーズを、米国最大のスーパーWhole Foods Marketで全国展開。韓国発のブランドUNLIMEATは、アップサイクルした大豆などから作られたヴィーガンツナ製品を発売しました。

Foody’sCocuusは、3Dプリント技術により製造した植物性ベーコンを、スペイン全土のカルフールで発売。同じスペインのHeura Foodsは、国内の450の学校に植物性代替肉を導入しています。

イスラエルから米国に進出したChunk Foodsは、ステーキハウスやファストフード店でホールカットステーキ肉の提供を開始し、成功を収めました。スロベニアのJuicy Marblesは、骨まで食べられるスペアリブという画期的な新製品を発表しています。

消費者の主要な動機は健康、味と食感の改善が鍵に


米国では、植物性食品を購入した世帯の81%が、年間を通じて複数回購入しており、大半のカテゴリーにおいてリピート購入率は前年比で比較的安定しています。依然として最大のカテゴリーとなっている植物性ミルクは昨年、動物性も含めたミルク総売上高の約15%を占めていました。

代替肉に関する調査では、消費者の36%が昨年植物性代替肉を食べており、25%は月に一回以上の頻度で食べていると回答しました。また、植物性代替肉を食べると回答した消費者の95%が、従来の肉も食べると回答。

別の調査でも同様のデータが得られており、ヴィーガンやベジタリアンではない通常の買い物客が、植物性食品業界にとって重要な市場であることを示唆しています。

過去に植物性代替肉を食べたことがあるものの、この1年間に購入しなかったという消費者は、味と食感の改善、そしてコストの低下が実現されれば、再度購入するようになる可能性があるとのこと。

また、植物性代替肉の消費量を増やしたという消費者の55%が、主要な理由として「健康」を挙げていました。このような傾向を受け、植物性代替肉大手のBeyond MeatImpossible Foodsはいずれも、米国心臓協会(AHA)のHeart-Check認証を取得。心臓病予防の効果を謳うなど、健康面でのメリットを最大限にアピールしています。

Beyond Meatはまた、ISOの監査を受けた2度目のライフサイクルアセスメントの結果を公表。従来の平均的なビーフパティに比べ、温室効果ガスの排出量が90%、水と土地の使用量が97%、再生不能エネルギーの消費量が37%少なく済むといい、環境に対するプラスの効果も示しました。

企業の技術開発動向


企業の技術開発においては、新たな植物由来原料の開拓、新たな栽培方法、味や食感、栄養を最適化するプロセスの開発が主要なテーマとなっています。

新たな原料の中でも注目されているのが水生植物で、耕地が不要で成長が早いことから、植物性食品としての有用性が模索されています。

Plantible FoodsICLは、水生植物レムナ(ウキクサ)から抽出したタンパク質RuBisCO(ルビスコ)を含んだクリーンラベル原料を開発。HN Novatechは、植物性代替肉の原料として用いる海藻ベースのヘムを発売しました。

North Sea Farmersはアマゾンから150万ユーロ(約2億5,100万円)の支援を得て、オランダの洋上風力発電所のタービンの間で海藻を栽培するプロジェクトを開始しています。

植物性タンパク質成分を望ましい3次元構造に成形し、肉に似た食感を作り出すための押出成形では、Clextralが最大1,200kg/時の処理能力を実現するHCDテクノロジーを発表し、拡張性を向上。

シアーセル法においてもスケーラビリティの向上が続いており、ホールカット肉のパイオニア企業Rival Foodsは、オランダの外食市場で代替鶏肉の販売を開始しました。

動物性タンパク質の食感や口当たりをより正確に再現する可能性を秘めている紡糸(細い繊維を紡いで筋肉組織の大きな構造に仕上げる)技術にも注目。繊維産業などで広く使われてきた一方、食品用途にスケールアップするのは難しいとされていましたが、SimulateProject Eadenといった企業が、この技術を用いた製品の開発を進めています。

また、製造能力の拡大と、サプライチェーンのインフラ整備にも進展が。米国では植物性ミルクを製造するSunOptaの285,000平方フィート(約26,000平方メートル)の施設が開設されたほか、Umiamiは新工場用の土地をユニリーバより買収し、Bungeは大豆の加工施設を着工しました。

2024年の予測と総括


「淘汰」や「正常化」、「安定化」といったキーワードが、業界全体のダイナミクスを説明するために頻繁に用いられた2023年。GFIは、こうした環境を形成した要因は2024年も続くと予測しています。

インフレに伴う物価高は、消費者の代替プロテイン製品への支出意欲を減退させ、植物性代替肉の需要に大きな影響を与えました。米国の消費者が依然として、労働、住宅、国家の債務などの問題を差し置いて、食料品価格を経済的懸念事項のトップに挙げていることからも、業界の企業にとってはしばらく苦しい状況が続く見込みです。

しかしながら、2024年は動物性タンパク質の生産量の伸びが鈍化すると予測されていることから、植物性食品企業にとっては、従来品との価格差を縮めるチャンスとなる可能性も。その上では、植物性食品企業が、自社製品が提供できる独自価値を消費者にしっかり伝えていくことが重要です。

この1年で、消費者生活のさまざまな場面で新たに植物性食品が登場しただけでなく、植物性ステーキ、寿司、ゆで卵などの新製品が発売され、カテゴリーの洗練度合いも向上しました。

これらの製品は、味や価格の面で完全に消費者の期待に応えているわけではありませんが、引き続き地球環境や人間の健康に多大なインパクトをもたらす有望なソリューションとなっています。

各国政府がこうしたメリットを強調し、植物性食品の検討を優先するようになったことは、明るい兆しとなりました。ですが、ほかの気候変動対策に提供されている資金とのギャップを埋めるためには、さらなる取り組みが必要だとしています。

2024年夏に開催されるパリ五輪では、ネスレ傘下の植物性食品メーカーGarden Gourmetが植物ベースの食事を提供する予定。持続可能な食生活への移行をより多くの人に呼びかけ、食の転換を推進することが期待されます。

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