【2025年版】植物性食品業界の現状まとめ —GFIレポート

米国の非営利シンクタンクThe Good Food Institute(以下、GFI)が、代替プロテイン業界の現状をまとめた2024年版レポートを発行しました。

各セクターの商業的状況、投資動向、技術革新、政府と規制の動向に関する分析を提供するレポートの全文は、こちら(🔗GFIウェブサイト)から閲覧可能。

本記事では、植物性食品に関する部分の記載をベースに独自調査の内容も加え、2024年の動向と2025年以降の展望についてまとめています。

売り上げ成長が鈍化する一方で、明るい兆しも


2024年、世界全体では、植物由来の代替肉、シーフード、ミルク、ヨーグルト、アイスクリーム、チーズの小売総売上高は、前年比5%増286億ドル(約4兆1,200億円)に達しました(卵については報告なし)。

製品カテゴリー別で見ると、代替肉の売り上げが欧州と北米に集中しているのに対し、代替乳製品はアジア太平洋地域が全体の3分の1を占め最多でした。

最も売上高の大きかったカテゴリーは植物性ミルクで、184億ドル(約2兆6,500億円)を記録しています。

最大市場の米国では、植物性食品の小売市場規模は81億ドル(約1兆1,700億円)となっており、7年前から倍増しているものの、2022年の85億ドル(約1兆2,200億円)から微減を続けています。

インフレの影響から、消費者が食料品価格に対する不満を強めた一方で、革新的な新製品の発売、植物性代替卵の需要の高まり、商品回転率の改善など、カテゴリー全体にとって明るい兆しも見られました。

植物性代替卵は、まだ小規模ながら目覚ましい成長を遂げましたが、これは米国の採卵鶏の間で高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)が蔓延したことによるもの。2024年12月の卵1ダースの平均価格は前年比65%増の4.15ドル(約600円)にもなり、上昇にはいまだ歯止めがかかっていません。

植物性卵を複数回購入した世帯の割合は、2年前の44%から昨年には56%まで上昇しており、市場の成長は今後も続くとGFIは予想。

そのほか、植物由来のプロテインパウダーとドリンク、プロテインバー、豆腐、テンペ、セイタン(グルテンミート)、焼き菓子などのデザート類はすべて、金額ベース・数量ベースの両方で増加しています。

活発化する政府投資、表示論争にも新展開


植物性食品セクターへの民間投資は減少したものの、カナダ英国スウェーデンなどの政府は同分野の研究プログラムに多額の公的資金を投入しています。

GFIはそれでも、植物性食品をより美味しく手頃な価格にするため、研究開発やその他のリソースへのさらなる投資が必要だと強調。

また、米国では、国内で作物を機能性タンパク質原料に変える処理能力が限られており、カナダと中国からの原料輸入に影響を与える貿易の混乱が迫っているにもかかわらず、新たな施設建設を支援する政府の措置がほとんど講じられていないことを指摘しています。

欧州ではデンマークが植物性食品への移行をリードし、畜産の環境影響に対処するべく炭素税を導入(2030年から施行)した上、農地を森林に転換する画期的な政策を可決しました。オランダ政府も、畜産農家の自主的な農場閉鎖に7億ユーロ(約1,150億円)を拠出する補償措置を計画中です。

その他の主だった政府レベルの動きとしては、オーストリアフィンランドが、食生活ガイドラインの改定を実施。新しいガイドラインは、国民の健康と地球を守るため動物性タンパク質を減らし、植物性タンパク質を多く摂取するよう推奨する内容となっています。

中国政府は「植物性食品の一般原則」施行にあたり、初めて導入を予定する業界標準のドラフトを発表しました。

昨年はまた、フランスで2018年ごろから続いてきた植物性食品のラベル表示論争に、新展開が見られました。同国では、植物性食品メーカーに対して「ステーキ」や「ソーセージ」といった食肉関連用語の使用を禁止する政令が出されていましたが、欧州連合(EU)の最高裁にあたる欧州司法裁判所が介入して、これを却下。

同様の規制を試みる政府はほかにもありますが、これまでのところ、裁判所や規制当局は禁止措置に概ね反対しています。

チリでは、NotCoの植物性ミルク製品「NotMilk」に表示されている「milk」の用語を使用することを禁ずる訴訟が提起された後、控訴裁判所により却下。英国ではその逆に、オーツミルク大手Oatlyに対する1年前の判決が覆され、「milk」の使用禁止が定められました。

大企業からスタートアップまで、製品開発例は多数


大企業による関与は昨年も継続し、クラフト・ハインツがNotCoとの合弁事業の一環として植物由来のホットドッグとソーセージを発売。

ユニリーバの「The Vegetarian Butcher」ブランドは欧州の一部地域で植物由来の鶏肉と魚の新製品を発売し、ネスレは中南米とアフリカで植物由来のひき肉製品をデビューさせました。

フランスでは、マクドナルドBeyond Meatの植物性パティを採用した「McPlant(マックプラント)」シリーズの植物性ナゲットを常設メニューに追加。ピザハットは、La Vie Foodsの植物性ハムを導入しています。ドイツのバーガーキングは、国内で販売するヴィーガン製品すべてで、従来の肉を下回る価格を実現しました。

また、イタリアの老舗食肉メーカーGruppo Tonazzoが創業136年目にして食肉事業を捨て去り、植物性食品への全面的な移行を決断するという大胆な動きもありました。

乳製品では、ダノンの植物性乳児用粉ミルクとヨーグルト、ラクタリス・カナダの新しい植物性ミルクブランド、Bungeアーラフーズの植物性バターなど。

スタートアップ企業の主立った動きとしては、Eat Justが代替卵「JUST Egg」の味と食感に最大の改良を施した新バージョンを発表しました。Redefine Meatは3Dプリントしたフランクステーキを欧州の小売店で発売し、SWAP Foodはホールカットチキンで米国に進出。

Força Foodsはスイカの種を原料に用いた代替ミルク、Coco2はココナッツをベースにした乳児用粉ミルクという、いずれも世界初の製品を発売しました。

代替コーヒー(Voyage FoodsPrefer)やチョコレート(Planet A FoodsEndless Food Co)の分野でも、新たに市場化に成功した例が相次いでいます。

食感やコストの改善が普及の鍵、誤情報の蔓延も問題に


米国では、植物性食品を購入した世帯の80%近くが、年間を通じて複数回購入しており、大半のカテゴリーにおいてリピート購入率は前年比で比較的安定しています。

依然として最大のカテゴリーとなっている植物性ミルクは昨年、動物性も含めたミルク総売上高の約14%を占めていました。

代替肉に関する調査では、消費者の40%が植物由来の製品を食べていましたが、その大半は従来の肉も食べると回答しており、ヴィーガンやベジタリアンではない通常の買い物客が業界にとって重要なターゲットであると示唆されています。

GFIが昨年実施した意識調査によると、米国に住む18〜59歳の消費者の71%が、植物由来の肉や乳製品の摂取に前向き。そのうちほぼ5人に1人が、肉の消費量をすでに減らしていると回答しました。

過去に植物性代替肉を食べた経験があるものの、この1年間に購入しなかったという消費者(4分の1程度)は、味と食感の改善、そしてコストの低下が実現されれば、再度購入するようになる可能性があるとのこと。

また、ソーシャルメディア上に植物性代替肉に関する誤情報が大量に出回っているといい、正しい認識を効果的に普及させることも新たな課題に挙がっています。

欧州では、2大市場であるドイツ英国で、フレキシタリアンの食習慣が広く浸透。すでに肉を食べない人も含めて、肉の摂取量を積極的に減らしていると回答した人がドイツでは成人の47%、英国では41%に上っています。

植物性食品の販促戦略に力を入れる小売企業も出てきており、REWE Groupは100%ヴィーガン食品を揃えたスーパーマーケットをオープン。BILLAでは植物由来のプライベートブランド製品に従来製品と同等以下の価格を付けたところ、売り上げが33%増加し売れ筋商品に成長しています。

Lidlも、ドイツで販売する植物性代替肉の価格を従来品と同等に設定し、売り上げが30%増加したと報告。オランダの店舗では従来の食肉の隣に代替肉を試験的に陳列して誘目性を高め、売り上げを7%増加させました。

東南アジアでは、植物性代替肉の市場はまだ成熟していませんが、従来の食肉と同等の価格であれば購入すると答えた人が4分の3に上ったという調査もあり、成長の機会が示されています。

新規原料開拓と設備投資の取り組み


昨年初め、中国産のエンドウ豆タンパクが米国とカナダの市場でダンピング(不当廉売)と判断されたことに加え、欧州の天候不順もあり、エンドウ豆タンパクのサプライチェーンが抱えるリスクが露呈しました。

大豆タンパクや小麦タンパクには補完的な選択肢があり安定している一方、未発達なサプライチェーンは調達上のボトルネックとなる恐れがあると指摘されています。

このような背景から新たな植物由来原料を開拓する取り組みの中で、注目を集めたのがソラマメタンパク質。ソラマメには、ニュートラルな味と淡い色、高タンパク質含量(20~25%)、品種改良に利用しやすい簡明なゲノム、そしてエンドウ豆と同様に窒素固定を行い土壌の健康に役立つといったメリットがあり、異なる加工方法にも対応していることが示されました。

RoquetteBungeWide Open Agricultureがこれらの利点を活用して、新たなソラマメタンパク質分離物を開発。Integraは、年間15,000トンの処理量を目標とする乾燥・精製工場を着工し、スケーラビリティの可能性を示しています。

2024年には、従来のタンパク質施設の改修を含め、少なくとも26の植物性食品用の製造拠点が開設、拡張、または発表されました。

ダノンラクタリス・カナダはいずれも、従来の工場を植物由来の製品用に転換。フランスのSWAP Food(旧称:Umiami)は、年間7,500トンのホールカットチキンを製造できる新工場の稼働を開始しました。

スウェーデンの農業協同組合Lantmännenは、12億スウェーデン・クローナ(約180億円)を投じた植物性タンパク質工場の建設計画を発表。

CocuusRevo Foodsは、それぞれスペインとウィーンに3Dプリント食品の製造施設を開設しました。カナダのNew School Foodsは、植物性ホールカットサーモンを製造するパイロットプラントを稼働させています。

2025年以降の予測と総括


2024年は、世界的な売り上げ成長の鈍化や資金調達の低迷から、閉鎖や事業停止を余儀なくされる企業や、業界内での統合・再編の動きがありました。

市場に出回っている多くの製品は、味や食感、コストの面でいまだ消費者の期待に応えるには至っていないのが現状ですが、技術開発により解決の兆しが見えてきた部分も。

植物性代替肉では、3Dプリンティング、シアーセル法、紡糸技術など、従来の押出成形に取って代わる技術によって作られた製品がより多くの家庭の食卓に届くようになり、食感改良の面で大きな進歩が達成されました。

植物性食品の平均小売価格は、過去2年間で18%上昇した後、昨年はわずか1%の上昇率にとどまり(食品・飲料全体では2%の上昇)、従来型の製品と同等の価格を実現するメーカーや小売店も現れています。

GFIは、鶏卵をはじめとしたサプライチェーンの圧力が高まったことは、植物性食品メーカーにとっての好機になり得ると指摘。自社製品を改めて消費者に紹介したり、サプライチェーンの多様化を目指す企業と提携したりといった取り組みが成功すれば、売り上げの増加につながるとの見解です。

国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の食肉消費量は2050年までに、2012年比で少なくとも50%増加するとのこと。こうした需要の増大に対応しつつ、食料安全保障や生物多様性、ヒトと地球の健康を守るために、植物性食品は大きな役割を果たせると期待されています。

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