オランダのViviciが精密発酵乳タンパク質のGRAS自己認証を取得し、B2B供給を開始
オランダの精密発酵スタートアップViviciが、乳清(ホエイ)タンパク質の一種であるβ-ラクトグロブリンについて、米国のGRAS(Generally Recognized as Safe)ステータス取得を発表。精密発酵製品の認可が加速している米国で新たに安全性基準をクリアし、米国内での販売が可能になりました。
認可取得と同時にB2B向けの製品化を果たしており、このβ-ラクトグロブリンを含んだ最初の消費者向け製品が、年内にも発売される見込みです。
従来の乳清タンパク質の機能性を上回る
β-ラクトグロブリンは、牛乳に最も多く(約50%)含まれる乳清タンパク質。優れたゲル化・起泡・乳化特性を持ち、食品や飲料の食感と口当たりを向上させる役割を担う物質です。
カゼインなどと比べると再現が容易とされ、現在乳タンパク質でGRASステータスを取得している企業の大半が開発を進めています。
Viviciのβ-ラクトグロブリンは、人体に欠かせない必須アミノ酸をすべて含み、血漿中に速やかに吸収されるのが特徴とのことです。特に、体内でタンパク質の合成を促進する分岐鎖アミノ酸(BCAA)の含有量が多く、ロイシンは16%(通常は推定14.5%程度)、バリンとイソロイシンを合わせて13%(同10.5%程度)。
色が透明で風味もニュートラルなため、ミルクやチーズのほか、プロテインパウダーやプロテイン飲料、プロテインバーなどの用途に活用できるといいます。
米国で精密発酵乳タンパク質の認可が加速
このGRASステータス取得によりViviciは、米国でアニマルフリー乳タンパク質の販売を認められた6番目の企業となりました。
同じ乳清タンパク質ではPerfect Day、Remilk、Imagindairyの3社が「FDA GRAS」を取得。TurtleTreeはラクトフェリン、New CultureはカゼインでGRAS自己認証* を取得しています。
ViviciのCEOを務めるStephan van Sint Fietによると、米国食品医薬品局(FDA)への正式な通知も進めているほか、今後数カ月以内にEUとシンガポールでも認可申請を行う予定です。
酪農業界のカーボンフットプリント削減に
Viviciは、オランダのDSM-Firmenich Venturing(以下、DSM)とニュージーランドのFonterra Co-operative Group(以下、Fonterra)の合弁で、2022年に設立されました。
DSMは、各種原料や素材を手掛ける大手化学メーカーの投資部門。Fonterraは、世界の乳製品輸出の約30%を生産するニュージーランド最大の企業ですが、その一方で年間1,200万トン余りの温室効果ガスを排出する、国内最悪の環境汚染企業でもあります。
Fonterraは10年後までに酪農由来の排出量30%削減を約束しているものの、先住民であるマオリ族の指導者が酪農と化石燃料事業者のグループに対して起こした気候変動関連の訴訟に、現在も直面している状況。
メタンガスを削減する独自技術を持ったDSMとの提携により精密発酵業界に参入したことは、同業界全体にとって大きな意味を持つ出来事となっただけでなく、Fonterraとしてのカーボンフットプリント削減にも資するものとみられます。
Viviciは現在、ラボスケールの生産から、12万リットルの発酵タンクへのスケールアップに成功。B2B企業のため自社で乳製品などの開発は行っていませんが、すでに他企業との開発プロジェクトが進行中で、年内にも消費者向けの製品が上市される見込みです。
参考記事:
Precision Fermentation Startup Vivici Earns Self-Affirmed GRAS Status to Sell Animal-Free Whey in the US
Māori climate activist Mike Smith celebrates big win in legal battle against some of New Zealand’s biggest polluters | Newshub
この記事へのコメントはありません。