フランスが植物性代替肉の表示を規制する政令を発表、EU法への違反は引き続き争点に

フランス政府が先月26日、植物性代替肉の表示に使用できる用語を制限する政令を発表しました。

EUの判断を待たず法制定を断行


この政令は、4億ユーロ(約653億円)の資金援助を含むフランスの新たな「畜産主権計画」の一部であり、畜産業界関係者が長年にわたって要望してきたものです。

同国が初めて同様の禁止令を可決したのが、2022年6月。しかしその後、EU法に矛盾しているとして植物性食品に関わる複数の団体が提訴し、裁判でも不当と判断されたことを受けて、一時撤回。欧州司法裁判所(以下、ECJ)に検討要請が持ち込まれていました。

回答が得られ次第、フランス国務院(Conseil d’État)で裁判が再開される見込みでしたが、ECJの見解が得られないまま新たな政令の公布に踏み切っています。

新政令は、植物性代替肉製品のラベル表示によく使われる「ステーキ」「ハム」「グリル」といった、21の用語を禁止するもの。また、「ベーコン」「ソーセージ」「ナゲット」など約120語を関連用語としてリストアップし、植物由来原料の割合が最大0.1〜6%の製品を除いては使用を禁止しています。

事業者に製品ラベルを適応させる猶予期間を与えるため、公布から3カ月後に施行予定。また、公布から1年間は、施行前のラベルを貼付した製品在庫の販売が認められます。

猶予期間を過ぎて違反があった場合、個人には最高1,500ユーロ(約24万5,000円)、企業には最高7,500ユーロ(約123万円)の罰金が科されます。

EU法への違反が争点に


EUにおける食品表示の法的枠組みは、共同体法の「Regulation (EU) 1169/2011」、および共通農業政策の共通市場組織(CMO)規則に含まれる販売基準で構成されています。

乳製品に関連する用語は現行のCMO規則で保護されており、植物性食品では使用が禁止されています。2017年にECJが、「ミルク」「バター」「ヨーグルト」といった用語について、植物性食品のマーケティングに使用することは違法と決定しました。

しかしその後、EU各国の国内裁判所で、「alternative to yoghurt(代替ヨーグルト)」「cheese-style(チーズ風)」「creamy(クリーミー)」などの表現は使用可能であることが確認されている様子*1

一方、食肉に関しては2020年に、植物性代替肉製品への「バーガー」や「ソーセージ」といった用語の使用を禁止するとした規則修正案を否決。フランスの政令と同様の内容を一度検討し、却下した過去があります。

ECJの最近の判決では、EUの食品表示に関する共通の枠組みは、各加盟国が食品の原産地表示に関して追加の国内規定を設けることを「妨げるものではない」とした事例も。

ただし、そのような追加措置の実施には「公衆衛生の保護や食品詐欺の防止など正当な理由がなければならない」とされており、今回のフランスの一件でも理由が正当とみなされるかどうかが適法性の判断基準となりそうです。

自国産業の停滞を招くとの指摘も


政令案の制定にあたり、フランス農業大臣のMarc Fesneauは、「食肉製品に関連する名称に関して誤解を招くような主張に終止符を打ちたい」との理由を述べていました*2

しかしながら、ProVeg Internationalが実施した調査では、76%が「ヴィーガン」「ベジタリアン」「植物性」などの表示について、製品の性質を理解・識別するのに役立っていると回答するなど、現行の表示が必ずしも消費者の混乱を招いているとはいえない状況です。

植物性食品メーカーを代表するProtéines Franceの弁護士Guillaume Hannotinは、「植物性ステーキ」という言葉が40年以上前から使われていることに触れ、「牛乳とは異なり厳密な法的定義のない製品の表示に係るEUの規則に、フランスの新政令はまだ違反している」と主張しています*2

また、禁止措置はフランス国内で製造・販売される製品にのみ適用されるものであり、フランスに輸入される他国企業の製品は影響を受けません。

このため、スーパーマーケットの棚に並ぶ同じ製品でも、生産国によって表示方法が全く異なることになり、混乱を防止するという本来の目的とは逆方向に進んでいるとの指摘も*3。結局のところ、植物性食品カテゴリーにおける自国の競争力を低下させるだけとも危惧されています。

参考記事:
France approves decree to ban meat names for plant products amid legal uncertainty – Euractiv
France Bans ‘Steak‘ Label: How Plant-Based Products Are Regulated Worldwide | TIME
*1 Clear labelling – GFI Europe
*2 No more cordon blur: France tries again to ban meaty language on vegetarian products | France | The Guardian
*3 Good Food Institute Europe | LinkedIn


* 2024.04.11追記:植物性食品メーカーなどからなる企業連合が、3月下旬に政令の停止要請(急速審理=référé)を提出。おそらくこれを受けて、今月10日、フランス国務院により同政令が「一時停止」されたとの報道がありました。上述したEUにおける適法性の有無について、ECJの回答を待つこととされています。

関連記事

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。