分子農業を手掛けるMoolec Science、ウシミオグロビンを生産するエンドウ豆で米国農務省からの安全性認可を取得
ルクセンブルクを拠点に分子農業を手掛けるMoolec Scienceが、鉄分を豊富に含んだ牛タンパク質を生産できる遺伝子組み換えエンドウ豆「PEEA1」について、米国農務省(USDA)から初の安全性認可を取得しました。
鉄分不足に対処する植物由来のソリューション
米国農務省動植物検疫局(以下、USDA-APHIS)は、審査完了を示すレターの中で、Moolec Scienceの遺伝子組換えエンドウ豆が「植物の病害虫リスクを増大させる可能性の高い経路は特定されなかった」と述べています。
同社が過去18カ月で規制当局の認可を取得したのは、生産にベニバナを用いる栄養オイル「GLASO」、豚肉タンパク質を大量生産できる大豆「Piggy Sooy」に続き3例目。開発を進めてきた主要作物のすべてで、米国の規制当局による認可を受けました。
最新の開発例となる遺伝子組み換えエンドウ豆は、ウシミオグロビンを高収率で生産することができ、植物性食品を中心に据える消費者の鉄分補給ニーズに応えることができるもの。
哺乳類の筋細胞に含まれるヘムたんぱく質の一種ミオグロビンは、鉄を豊富に含んでおり、ヒトやイヌの体内では酸素の貯蔵と拡散を助け、ネコにとってはタウリンの必須供給源となる重要な物質。体内の鉄分量が不足すると、酸素を供給するのに十分な赤血球が作られなくなり、貧血が生じます。
2021年には世界人口の4分の1近くが鉄不足に直接起因する貧血に悩まされており、女性、妊産婦、若い女性、5歳未満の子供の症例が急増しているとのこと。世界全体では、貧血に悩む男性は全体の17.5%であるのに対し、女性では31%に上るという特徴があります。
来年以降の製品発売を見据え準備を進める
USDA-APHISの承認により、米国内で遺伝子操作を施したエンドウ豆栽培の安全性が認められたものの、商品化にあたってはさらに米国食品医薬品局(FDA)の認可が必要となります。
Moolec Scienceはエンドウ豆の種子にウシのミオグロビン遺伝子が安定して含まれていることを6カ月前に確認したばかり。いまだ開発段階であり、PEEA1の発売は2028年を予定しています。
一方、ベニバナを用いて生産したγ-リノレン酸(GLA)を従来比3倍多く含むオイル「GLASO」は、大手CPG・ペットフード企業とのオフテイク契約に基づき、来年にも市場投入を計画。今月、300〜400トンのベニバナ種子を収穫する予定です。このベニバナは、チーズ製造に欠かせないウシ由来のタンパク質キモシンの開発にも使われています。
「Piggy Sooy」については、今年4月にUSDA-APHISの認可を取得しました。2027年の発売に向け、現在は米国3州で野外試験の最中。これらに加えて、酵母由来のサプリメントおよび食品成分「YEEA1」の開発にも取り組んでいます。
米NASDAQに上場している同社は、直近の決算レポートで、2024年の売上高を560万ドル(約8億6,700万円)と報告。昨年買収したValorasoy Food Ingredientsのデモ施設を引き継いで、B2B顧客向けの繊維状大豆タンパク質(TSP)パウダーの製造・販売を始めたことで収益が上がり、昨年の90万ドル(約1億5,000万円)から大きく増加しました。
「GLASO」の導入により、2025年にはさらなる収益増を見込んでいます。
参考記事:
Moolec Has Received USDA Approval for the First Genetically Modified Pea in History | Newswire
Molecular Farming Startup Earns USDA Approval for Peas That Produce Beef Protein
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