Impossible Foodsの精密発酵ヘムが安全性評価をクリア、EUでの販売認可に近づく
欧州食品安全機関(EFSA)が、米国の植物性代替肉メーカーImpossible Foodsが開発した精密発酵ヘムを、食用として安全と判断しました。
肉の色や風味を再現する役割を持つヘム
「ヘム」とは、大豆とジャガイモをベースにしたImpossible Foodsのバーガーパティ「Impossible Burger」などに添加される原料の一つ。肉に特有の風味に加えて、ピンク色に発色しパティから滴る肉汁を演出します。
ヘムはあらゆる動植物の細胞に含まれる分子ですが、同社の使用するヘムは動物由来のものではなく、大豆の根粒に含まれる大豆レグヘモグロビンに由来するもの。
さまざまな植物成分を探索した結果これに着目した同社は、当初は大豆の根粒からヘムを抽出していましたが、地球に優しい生産手法でスケールアップを目指すため、精密発酵に移行。
遺伝子組み換えした酵母菌Komagataella phaffii(別名、ピキア酵母)を用いて、大豆レグヘモグロビンに含まれるヘムの大量生産に成功しました。
市販化にはGMOパネルの評価が必要に
Impossible Foodsは申請時、代替肉の着色料として精密発酵ヘムの使用を想定し、含有量を牛肉中のミオグロビン(0.8~1.8%)と同程度の最大0.8%としていました。
EFSAは、前述の酵母菌株がすでに複数の代替プロテイン企業により使用されていることなども考慮し、想定されている用途および含有量では安全性の懸念はないと判断。6月末に発表された見解では、大豆レグヘモグロビンの一日摂取許容量(ADI)についても、設定する必要はないとしています。
2019年に始まったこの認可プロセスには継続的な安全性評価が含まれており、今回の判定により重要なステップが一つクリアされました。しかしまだ完了ではなく、EFSAの遺伝子組み換え生物に関するパネル(GMOパネル)による安全性評価を残しています。
この評価プロセスは2021年12月以来停止しており、EFSAがImpossible Foodsに追加情報の提出を求めている状況。リスク評価の期限は2025年6月に設定されており、期限前の提出が必要です。
EUでは精密発酵原料の規制に遅れ
Impossible Foodsのヘムは、米国、カナダ、オーストラリア・ニュージーランド、シンガポールで販売が認められている一方、EUでは精密発酵原料に対する規制が厳しく、市場参入が遅れています。
同社は2022年に英国で製品を発売しましたが、英国でもEUと同様に市販前承認が必要なため、現在展開している製品にはヘムが含まれていません。
EUでの認可が無事に得られれば、今後の認可プロセスのスピードと透明性が増し、精密発酵原料の市場化を目指すほかの企業にも道が開かれる可能性があります。
植物性代替肉の原料としてアニマルフリーのヘム生産に注力する企業には、米国のMotif FoodWorks、ベルギーのPaleo、スウェーデンのIronic Biotechなど。
そのほか、イスラエルのYemojaは、微細藻類の一種である紅藻類でヘムを置き換えた成分「Ounje」を発表。韓国のHN Novatechは、海藻から抽出したヘムを昨年発売しました。
参考記事:
Safety of soy leghemoglobin from genetically modified Komagataella phaffii as a food additive – – 2024 – EFSA Journal – Wiley Online Library
Impossible Burger Closer to EU Market as “Bleeding” Fermented Heme Deemed Safe
Impossible Burger Clears First Food Safety Hurdle in Europe – Bloomberg
Impossible Foods Closer to EU Approval After Vegan Burger Clears Safety Assessment
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