ヘルシンキ大学のチームが、幹細胞の代謝を利用して培地なしで培養肉を生産する技術を開発
ヘルシンキ大学傘下の生命科学研究所「HiLIFE」に所属するPekka Katajistoと「Myocopia」プロジェクトの研究チームが、高価な成長因子を使わず、幹細胞の代謝を利用して培養肉を作る手法を開発したと発表しました。
培養肉の大規模生産と、安価な製品の市場化を可能にする技術とされています。
生産コストの大半を占める成長因子
動物細胞の成長を促進するための栄養素の混合物からなり、培養肉生産に欠かせない培地は、生産コストの大半(80%)を占め、その中でも細胞の分化を助ける成長因子が大きなコスト要因となっています。
通常、培地の価格は1リットルあたり数百ドル。どの培養肉企業も、従来の食肉と同等価格の実現に向け培地コストの低下に取り組んできました。
英国で培養ペットフードの規制認可を受ける寸前とみられるMeatlyは先月、タンパク質を含まない培地を開発し、コストを1リットルあたり1.25ドル(約200円)まで引き下げることに成功。
同じく培養ペットフードを手掛ける米BioCraft Pet Nutritionは、植物由来の成分で構成された培地を開発して、高級ペットフードと同等の価格を実現したと発表しました。
こうした成功例もあるものの、全体として培地は安価な培養肉生産を妨げる主要因となっているのが現状です。
バイオリアクター内の細胞を正確に制御
「Myocopia」プロジェクトのチームは、細胞の代謝が筋幹細胞の分裂と分化をどのように制御しているかを研究した結果、成長培地を使用せずに同じ細胞の挙動を引き起こす別のアプローチを発見しました。
これにより、細胞の代謝を変化させ、効率的に分裂し、指示されたときにだけ肉を形成させることが可能に。従来の手法に比べて長く細胞を増殖させ続け、バイオリアクター内の細胞を正確に制御することができるといいます。
研究チームは当初のPoC(概念実証)の有望な結果を受け、2023年後半にBusiness Finlandから2年間の「Research to Business」助成金を獲得。牛肉、豚肉、鶏肉など、商業化を見込んだ食肉で技術を検証するフェーズに入りました。
研究チームは、培養肉の生産者になるのではなく、ノウハウをライセンス供与するスピンアウト企業の設立を目指しているとのこと。この技術は特許出願中で、チームは試験的な導入を行うパートナー企業を探しており、投資家との話し合いも求めています。
提供が期待される製品の一つが、既存のバイオリアクターで使用できる、細胞の成長を刺激するように設計された特殊な「カクテル」。
チームを率いるPekka Katajistoは、「このイノベーションは、新興産業全体のゲームチェンジャーになると信じている」と語っています。
参考記事:
Stem cell technology pioneer Myocopia helps bring cultivated meat to consumers | Helsinki Innovation Services | University of Helsinki
University of Helsinki Develops “Game-Changing” Cultivated Meat Technology Without Growth Medium Using Stem Cells
Myocopia: Can Cell Metabolism Be the Catalyst for Cost-Effective Cultivated Meat?
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