ヒヨコ豆タンパク質を培養肉生産の足場に活用、可食成分で低コスト化実現へ —イスラエル工科大学

イスラエル工科大学(通称:テクニオン)の研究グループが、ヒヨコ豆のタンパク質を細胞の接着と成長をサポートする可食性の構造体に変換し、培養肉生産のための足場として活用できる可能性を示しました。
最終製品の形態に合わせて2種類の足場を作製
細胞の成長を導くだけでなく、ゼラチンやコラーゲンなどの動物由来成分を含まず、食品グレードで手頃な価格の足場を見つけることは、培養肉開発における中心的な課題の一つ。
組織工学の分野ではこうした生体材料が以前から用いられてきましたが、動物由来の材料への依存や規制上のハードルから、食品への応用には限界がありました。
『Food Hydrocolloids』誌に掲載された最新の研究は、生物学的適合性と消費者の受容性を兼ね備えた実現可能な選択肢として、ヒヨコ豆のタンパク質に焦点を当てています。
研究チームは、2タイプの足場を開発しました。1つはヒヨコ豆タンパク質のマイクロキャリアで、エレクトロスプレー技術*1 と溶媒交換により、平均の直径が577μmの球状粒子としたもの。この足場は、ひき肉や、パティのような加工肉製品を作る際の細胞培養に特に適しているといいます。
もう1つは、同じくヒヨコ豆タンパク質を原料とした繊維状足場で、こちらはエレクトロスピニング法*2 により作製。この技術では平均幅4.5μmの繊維のマットが形成され、ランダムに整列するか、または一方向に配向します。この繊維状足場の方は、ホールカット培養肉の生産に最適。整列した繊維が骨格筋細胞の向きを誘導し、従来の肉に似た構造での組織化を促すためです。
どちらの足場も、生産工程を通じてヒヨコ豆タンパク質の栄養的・構造的な特性を保持し、食用とできるため、これらのメリットを保ったまま最終製品中に残すことが可能。
ラボスケールでの試験では、ヒヨコ豆タンパク質は細胞毒性を示さず、間葉系幹細胞と骨格筋細胞が効果的に接着し、増殖する様子が見られました。培養開始から10日以内にマイクロキャリアは細胞で完全に覆われ、繊維状の足場では細胞が1週間で8倍に増殖しています。
*1 帯電した微小な液滴を噴霧する手法。
*2 溶液に高電圧を加えて極細の繊維(ナノファイバー)とし、糸のように紡ぐ手法。
低コストの商品化につなげられる可能性も
ヒヨコ豆は地中海沿岸や中東で主食として食べられているほか、フムスやファラフェルなどの料理は世界的に広く消費されてきました。
栄養価が高く、バランスのとれたアミノ酸組成を持ち、技術的な観点では溶解、乳化、ゲル化、高い吸水・吸油性といった有用な特性を備えるヒヨコ豆は、大豆やエンドウ豆などメジャーなマメ科タンパク質と比較しても、足場材として魅力的な選択肢になります。
培養肉の足場にマメ科植物を活用する試みは過去にもありましたが、溶解性や細胞の接着性に限界があり、100%植物由来で構造的に安定した足場を作ることは困難だったと本研究は指摘。
エレクトロスプレーとエレクトロスピニングによって構造化されたヒヨコ豆タンパク質は、このような制限の多くに対処できるものとみられています。
本研究はまた、採用された技術の拡張性も強調。エレクトロスプレーは、攪拌槽型バイオリアクターに適した可食性マイクロキャリアを大量に生成するのに使用でき、一方エレクトロスピニングは、プレミアム製品向けのより複雑な繊維状足場を開発する足掛かりとなります。
繊維状足場で生産されるホールカット肉は、培養が複雑なためにコスト高が避けられないと考えられるものの、マイクロキャリアをベースとした製品は、比較的低コストの商品化につなげられる可能性も。高価で食品グレードでもない投入物への依存を減らすことで、持続可能な培養肉開発の推進力になると結論されています。
参考記事:
Researchers develop chickpea protein scaffolds to advance cultured meat production | PPTI News
Chickpea-Based Scaffolds Show Promise for Cost-Effective Cultivated Meat Production
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