精密発酵を手掛けるYali Bio、母乳に匹敵する高純度の乳脂肪開発に成功

米国・カリフォルニアに拠点を置く精密発酵企業のYali Bioが先月、ヒトの母乳に匹敵する高純度の乳脂肪の生産に成功し、粉ミルク業界の革新を目指す上での重要なマイルストーンに達したと発表しました。
酵素プロセスに代わる乳脂肪「OPO」の生産技術
脂肪は母乳中のエネルギーの約50%を占め、乳児の成長と発達に不可欠。主要な長鎖オメガ6脂肪酸のアラキドン酸(ARA)とオメガ3脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)が認知能力や視覚、免疫に有益であることは、すでに広く認識されています。
微生物にDNA配列を挿入し、発酵させたときに特定の化合物を生産するよう教え込む精密発酵により、DSMのような業界大手はすでに、乳児用粉ミルクに含まれるARAとDHAの量を増加させることに成功してきました。
脂肪を構成するこれらの成分が、ほとんどの処方に標準的に添加されるようになった一方、主要な構造化脂肪であるOPO(1,3-ジオレオイル-2-パルミトイルグリセロール)は、栄養素の吸収などに重要な役割を果たすと示されているにもかかわらず、開発が進んでいないのが現状。
大半はBunge、AAK、Wilmarといった企業の手で、植物油と酵素を用いるプロセスで作られており、中国の主要な粉ミルク製品で市場化された例もあるものの、欧米ではまだ実現していません。
Yali Bioによると、工程の複雑さ、パーム油から高純度で分離・精製する手法への依存、酵素にかかるコストの高さにより、欧米市場での採用が制限され、母乳と粉ミルクの栄養面での主な違いの一つとなっているといいます。
母乳に近い構造の再現に成功
遺伝子組み換え酵母を用いるYali Bioのプラットフォームは、母乳脂肪に似た高品質の構造化脂肪を、コスト効率の良いプロセスで生産することが可能。この技術により、メーカーは粉ミルク製品へのOPO配合量を増やせ、乳児にとってより良い健康の実現につながると期待されます。
同社の2年間に及んだ開発プロジェクトの一部は、米国国立衛生研究所(NIH)の国立小児保健発達研究所(Eunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Development)から、37万ドル(約5,440万円)の助成金を受けて実施されました。

創業者でCEOのYulin Luによると、この結果として「極めて高純度の」OPOを得られており、母乳に含まれるパルミチン酸のsn-2結合比率* が通常70〜88%の範囲にあるのに対して、精密発酵脂肪では66〜78%を達成。
従来の酵素プロセスを用いた市販のOPO製品2種(BetapolおよびInfat)では、それぞれ55~70%と52~60%でした。
「この技術は当社の研究所において、極めて再現性の高い発酵スケールまでの進展が見られた。最終製品となる精製OPOを手にするため、下流工程を統合した生産プロセスも開発できている」とYuはコメント。
同社の成果は北米、欧州、アジアの産業界から広く注目を集めているといい、乳児用粉ミルクメーカーとの提携に向けても交渉を進めています。
* OPOの構造を見ると、グリセロールの骨格に脂肪酸(パルミチン酸とオレイン酸)が結合しているが、3カ所ある結合部位(sn-1、sn-2、sn-3)のうち2つ目(sn-2)にパルミチン酸が結合している。母乳に含まれるパルミチン酸のsn-2結合比率を調べることで、OPOの含有量を測定できる。
政府の目指す供給安定化にも寄与
世界保健機関(WHO)と国連児童基金(UNICEF)では生後6カ月間の母乳育児を推奨しているものの、体質などさまざまな理由から粉ミルクが必要とされるケースは多くあります。
米国疾病予防管理センター(CDC)によると、米国では生後3カ月まで母乳のみで育児を続ける女性は半数に満たず、米国小児科学会(AAP)が推奨する生後6カ月の時点では4分の1しかいません。
そんな中、米国政府は粉ミルク製品の品質、安全性、栄養価を向上させるとともに、2022年の全国的な不足のような事態を避けるべく全国的な供給を安定させるための施策を実施。
米国食品医薬品局(FDA)の代替粉ミルクに対する規制にも改革が期待されており、Yali BioもGRAS(一般に安全と認められる)ステータス取得に向けた申請を目指しています。
参考記事:Yali Bio’s Yeast-Derived Fat Matches Breast Milk Purity Ahead of FDA GRAS Filing
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