CRISPR-Cas9を用いて糸状菌株を改良し、生産スピード向上と環境負荷の低減に成功 —江南大学

学術誌『Trends in Biotechnology』に掲載された論文で、遺伝子編集ツールCRISPR-Cas9を用いて、代替肉原料としての活用が進む糸状菌フザリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum)が持つ特性の改良に成功したとの研究結果が発表されました。

課題であった消化の悪さと資源効率の改善


フザリウム・ベネナタムは、肉に似た風味と繊維質の食感を自然に有しているため、植物性代替肉として製品化されているマイコプロテインの生産に最もよく用いられてきました。

すでに英国、米国、中国を含む主要地域で食品への使用が認められており、マイコプロテインの最大手Quornもこれを活用。しかしながら、細胞壁に厚みがあるために、やや消化に悪い可能性があるとも指摘されています。

さらに、この糸状菌を用いた生産は資源集約的で、大量の投入物が必要。糖分豊富な餌と硫酸アンモニウムなどの栄養素で満たしたタンク内で培養が行われるのが通常です。

本論文の筆頭著者Xiaohui Wuは、「マイコプロテイン生産は持続可能性が高いと多くの人が考えていたが、特にほかの代替タンパク質製品と比較した場合、生産プロセス全体の環境負荷をどう低減するかは真剣に検討された例がなかった」と指摘しました。

2種類の酵素に関連する遺伝子を除去


江南大学の研究チームは、遺伝子編集技術のCRISPR-Cas9を用いてこれらの課題を克服できるかどうかの検証を試みました。

実験では、キチンシンターゼピルビン酸デカルボキシラーゼという2種類の酵素に関連する2つの遺伝子を除去。細胞壁の形成に不可欠な役割を担うキチンシンターゼが機能しなくなったことで細胞壁が薄くなり、内部のタンパク質が消化されやすくなると同時に、ピルビン酸デカルボキシラーゼの除去により代謝経路に変化が生じ、タンパク質生産に必要な栄養素が削減できました。

改変後の菌株では、元の菌株と同量のタンパク質を作り出すのに必要な糖が44%削減され、生産速度は88%向上したとのこと。さらに、生産に伴う環境負荷が最大61%低減されました。

チームはさらに、フィンランドのような再生可能エネルギー中心の国から、中国のような化石燃料依存度の高い国まで、異なるエネルギー供給システムを持つ6カ国での生産をモデル化。

あらゆるシナリオにおいて、新しい菌株は従来のフザリウム・ベネナタムよりもライフサイクル全体での環境負荷が低く、中国国内の鶏肉生産に比べると必要な土地面積を70%、淡水汚染のリスクを78%低減できると結論しています。

これらの成果を得るためチームが行ったのは遺伝子編集だけで、外来のDNAは導入していません。これにより、遺伝子編集と遺伝子組み換えを区別して扱う市場では規制プロセスが容易になるものとみられます。

参考記事:
Researchers Engineer Meat-Like Fungus to Grow Protein More Quickly With Fewer Emissions
CRISPR breakthrough turns meat-like fungus into a faster, cleaner, more efficient protein source | PPTI News

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