Harmony Baby Nutritionがブラジル政府から約9億円の投資を獲得、精密発酵による低アレルギー性粉ミルクの製品化を目指す

米国に本社を置く精密発酵企業のHarmony Baby Nutritionが、乳児用粉ミルクの開発と研究開発センターの新設に向け、ブラジル政府から3,180万レアル(約8億9,000万円)の助成金獲得に成功したと発表しました。
2026年前半にR&D拠点の稼働を予定
精密発酵技術を通じて乳児用粉ミルクと母乳のギャップを埋めることを目指しているHarmony Baby Nutritionは、ブラジル国立経済社会開発銀行(BNDES)と、連携して研究プロジェクトへの融資を行うFinepが公募した助成金を獲得しました。
国内の研究・イノベーションセンター設立を目的としたこの公募プログラムには、「Nova Indústria Brasil(新ブラジル産業プログラム)」政策の一環として、国内のイノベーション強化のために総額30億レアル(約840億円)が割り当てられています。
新たな資金を得た同社は、ブラジル南東部のベロオリゾンテに研究開発センターを新設し、2026年前半にも稼働させて乳児用粉ミルクの開発に注力する計画。
創業者でCEOのWendel Afonsoは、「初の商業化に向けた生産拡大と、当社が作るような製品を必要とする家庭に届けるための商業インフラ構築に資金を割り当てる」と説明しています。
乳児の栄養摂取を巡る課題を解決
AfonsoはMITスローン経営大学院のMBAコースに通う中で、自身の娘が粉ミルクに対するアレルギーに苦しんだのをきっかけに、新たな低アレルギー性粉ミルクを開発するべく起業しました。
世界中で生まれる年間1億3,000万人の新生児の大半はいずれかの段階で粉ミルクを与えられますが、そのうち2~3%は牛乳アレルギーを持ち、最大6人に1人が粉ミルク摂取に伴う何らかの不調を訴えていると報告されています。
また、体質的に母乳育児ができない女性も5~10%存在し、さらに多くの割合で母乳の分泌量または栄養が不足しているとのこと。米国では、生後3カ月以降も母乳のみで育児を続ける女性は半数未満であり、米国小児科学会(AAP)が推奨する生後6カ月の時点で継続しているのはわずか4分の1に過ぎません。
Harmony Baby Nutritionはこの問題に対処するため、母乳に極めて近い味と機能を備えた粉ミルクを開発中。添加糖を大幅に削減し、乳製品への依存をやめることでカーボンフットプリントの80%を削減しました。
まずは生産基盤の確立に注力して、精密発酵技術により得られる母乳成分で、段階的に牛乳由来の成分を置き換えていく狙いです。
数ある母乳成分の中では、まず生物活性と乳児の発育に重要な役割を果たすラクトフェリンなどの機能性タンパク質から始め、続いてα-ラクトアルブミン、ヒトカゼイン、ヒトアルブミンなどの開発に移る計画。
「戦略的パートナーシップを通じて最高水準の規制および栄養基準を満たしつつ、生産を拡大させたい」とAfonsoは語っています。
生産インフラは持たない方針、まずは米国で市場化へ
Harmony Baby Nutritionは自社での生産を行わず、すでに商業規模の生産能力を持っている組換え乳タンパク質メーカーや原料サプライヤーとの提携を固める意向です。
Afonsoは、「乳児用粉ミルクは確立されたカテゴリーであるため、世界的に十分な生産能力が存在する。焦点を当てるべきは、厳格な品質と安全管理の担保であり、特に低アレルギー性の製品では従来の乳製品との交差汚染を防ぐことが極めて重要だ」と指摘。
「米国食品医薬品局(FDA)およびコーデックスの要件に準拠した専用ラインを保有し、当社の成長に合わせて生産量を増やせるパートナーを確保している」と話しています。
最初の展開先に見据えるのは、本社を構える米国。精密発酵原料を販売するにはFDAの認可が必要で、栄養分析や安全性評価を含む複雑で時間のかかるプロセスを経ることになりますが、この状況は近く改善される可能性も。
先月ドナルド・トランプ大統領が承認した2026年度米国政府予算には、FDAに対して乳製品や大豆を使用しない新しい粉ミルク製品の規制プロセスを合理化・迅速化するよう指示する文言が含まれていました。
また、2番目のターゲットとしているブラジルでは、粉ミルクの最大市場の一つであるにもかかわらず、特に低アレルギー性製品の国内製造能力が不足しているのが現状。ほぼ全ての粉ミルクを輸入に依存しており、高額な輸入関税が課せられるため、コストと入手可能性の面で大きな障壁が生じているといいます。
Harmony Baby Nutritionは、現地での事業基盤を構築し、最終的には国内生産を実現して、輸入依存度の低下と手頃な価格の実現を目指したい考え。
Afonsoは、規制当局である保健省傘下の国家衛生監督庁(ANVISA)が最近、乳児用粉ミルクの規制枠組みをアップデートしたことに触れ、「最新の科学的根拠に基づいて新規成分を段階的に取り入れており、これは組換えタンパク質に関する議論と評価の機会となるだろう」と述べています。
参考記事:Exclusive: Brazil Govt Pumps $6M in Biotech Startup to Close Gap Between Breast Milk & Baby Formula


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