培養肉の品質向上に向け、多臓器系を模したバイオリアクターの可能性を探る —テキサスA&M大学レビュー

Journal of Food Science』誌に、テキサスA&M大学の研究者らが執筆したレビュー論文が掲載されました。培養肉が従来の肉の品質に匹敵するためには、単純な純粋培養システムから脱却する必要があるのではと論じています。

動物体内で起こる相互作用の再現を目指す


この論文は、これまで培養肉開発において支配的であった純粋培養(単一の細胞種のみで行う培養)から脱却し、培養肉システムに生物学的複雑性をより多く導入する必要性について論じています。

現行の生産モデルは、初期開発段階における簡便性、コスト管理、拡張性のニーズを反映して、主に筋細胞または脂肪細胞を単独で培養することに重点が置かれていました。

しかしながら、このような簡略化にはトレードオフが伴い、特に従来の肉の風味や組織構造を形成する相互作用の再現において問題が生じると、著者らは指摘しています。

テキサスA&M大学助教授で責任著者に記載されているReza Ovissipourは、「純粋培養における主な品質上の課題は、風味と組織の成熟度だ」とコメント。「動物体内では、腸内細菌叢、肝臓、脂肪、筋肉間の相互作用によって風味が形成される。複数の器官にアプローチすることで、この作用をより正確に再現し、風味に関連する代謝と組織の発達を改善すると同時に、高価な成長因子への依存を低減できる可能性がある」としています。

線維芽細胞を用いた共培養が、肉質の再現に寄与


今回のレビューで検討された要素の一つが、複数種の細胞を個別に培養するのではなく、一緒に培養する「共培養」システムです。この手法は再生医療において確立されており、栄養素、サイトカイン、シグナル伝達分子の交換を通じて細胞の挙動に影響を与える能力が示されています。

「培養肉分野では、細胞株の開発、培地の最適化、バイオプロセスのスケールアップ、コスト削減といった、より差し迫った優先事項にまず焦点が当てられてきたため、共培養や多臓器アプローチの導入は限定的だった。これらをより広く普及させるには、製品の品質、機能性、費用対効果に関して明確なメリットをもたらすことを示す、さらに的を絞った研究が必要だ」とOvissipourは述べています。

支持細胞(メインの細胞の成長を助ける細胞)の役割は主要な論点となっており、筆頭著者のMorgan Reaseは、線維芽細胞を重要な例に挙げました。「線維芽細胞は、組織構造と機械的強度を決定づける細胞外マトリックス成分を産生・組織化するため、食感に実質的な影響を与え得る」とのこと。

「食感が依然として大きな課題である培養肉において、筋細胞や脂肪細胞にばかり注目が集まり、線維芽細胞のような支持細胞の貢献は過小評価されているのではないか。線維芽細胞を含む複数の細胞種の培養で得られる製品は、よりリアルな肉質を実現できる可能性がある」としています。

著者らはまた、培養肉生産において代謝をサポートする肝細胞の役割についても検討を行いました。「短期的に見て、肝細胞は栄養素の処理、脂質代謝、生物活性因子の産生など、代謝のサポートに最も有用だ。最も実用的なアプローチは、最終製品の主要な構成要素としてではなく、肝臓オルガノイドや小型の肝細胞モジュールを共培養システムに組み込むことだろう」とOvissipourは話しています。

微生物代謝産物の有効利用も検討


著者らが検討したもう一つの要素は、第1胃(ルーメン)由来代謝産物の利用について。ウシなどの反芻動物では、ルーメン内での微生物発酵によって、ビタミンB群、短鎖脂肪酸、その他風味や栄養特性に関連する代謝産物といった化合物が生成されます。

Reaseは「ルーメン由来の代謝産物は、従来の培地添加物に比べて、生物学的に関連性の高い栄養素、発酵産物、シグナル伝達物質の混合物をもたらしてくれる可能性がある」とし、「細胞の成長と分化、および風味に関連した代謝をより良くサポートすると同時に、高価な精製培地成分への依存度を減らせるかもしれない」と述べました。

本レビューでは、汚染リスクを低減するため、哺乳類細胞の培養とは物理的に隔離した別の発酵モジュールを通して、これらの化合物を導入する手法を提案。微生物の代謝産物は回収・ろ過され、培地の調整に利用されます。

「ルーメン由来の微生物群集は複雑で自然に変動するため、工業用途向けに完全に標準化するのは困難だと思われるが、これを完全に再現する必要はない。現実的なアプローチは、リグノセルロースの基質を細胞の風味、栄養価、機能に関連した代謝産物に変換する能力を持つ、簡略化され安定した微生物群集を、制御された培養条件下で育てることだ」とReaseは説明しています。

多臓器系を模したモジュール式バイオリアクター


これらの異なる生物学的システムを統合するべく、著者らは、分離していながらも相互に接続されたモジュールから構成される、多臓器系を模したバイオリアクターの設計コンセプトについて概説しました。

ルーメン発酵、肝細胞、線維芽細胞、および標的組織の細胞のための個別のユニットが、制御された培地交換によって連結され、最適化された条件下で稼働するものです。

Ovissipourは「モジュールごとに環境や運用の要件が異なるので、特に商業規模では困難が伴うだろう」と認めつつも、「各ユニットを個別に最適化して、代謝物や培地の交換を制御しながら接続すれば、モジュール式バイオリアクターシステムは実現可能かもしれない。このような段階的な設計によって、生物学的干渉を低減し、プロセス制御を改善し、すべてのシステムを単一のリアクターに統合しようとするよりもスケールアップが現実的になる」と説明しました。

著者らはまた、技術的な課題に加えて、規制上の事項が導入における主要な障壁となっていることも指摘。「ルーメン由来の投入物は複雑で変動が大きいため、規制当局は明確な特性評価、安全な生産手法、そして一貫した性能を期待するはず。差し当たっては、定義が明確でないルーメン混合物よりも、標準化された代謝産物の分画の方が現実的だ」とOvissipourはコメントしました。

論文では複雑な生物学的モデルを概説している一方で、短期的な業界の優先事項はコストと拡張性に引き続き重点が置かれることも認めています。

「短期的に見て、業界はコスト、培地、そしてバイオプロセスのスケールアップに引き続き注力し、シンプルさと拡張性が引き続き重要視されるだろう。ただ将来的には、風味、食感、品質に関して明確なメリットが得られる場合に限り、より複雑な生物学的モデルが採用される可能性がある」とOvissipourは結論しています。

参考記事:Journal of Food Science review explores multi-organ systems to improve cultivated meat quality, Texas A&M researchers say | PPTI News

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