「広大な牧草地は必要ない」中国のChanging Bioが微生物由来の乳製品を発表
上海のスタートアップChanging Bioが、酵母由来のタンパク質を使用したクリームとチーズを新たに開発。製パン・製菓業界で世界最大規模の展示会、ベーカリー・チャイナ2023で発表されました。
微生物の可能性を引き出す
Changing Bioにとって初となる製品はバイオマス発酵を用いたもので、中国食品薬品監督管理局(CFDA)の認可を取得済み。既存の食品技術、すなわち「パンやパスタなどの主食に歴史的に利用されてきた酵母のタンパク質増殖力」を、代替乳製品の生産に応用しています。
同時に精密発酵の技術開発も行っており、「パンダミルク」の生合成を実現させるなど、新たな乳清タンパク質の供給源も同時に探っているとのこと。
Changing Bioの創業者兼CEO、Luo Binは、「牛を飼育して牛乳や牛肉を得るまでには少なくとも3、4年かかるが、微生物発酵では全工程をわずか数十時間で終えられる。広大な草原や牧草地は必要ない」と、代替プロテイン生産における微生物の可能性を強調しました。
たった1基のリアクターで年間400トンの代替プロテインを生産でき、5千〜1万人の需要を満たせるといいます。
汎用性の高い「Kluvy」株
Changing Bioのチームは、チベット族自治州・シャングリラ市で採取された酵母をもとに、栄養価に優れており、汎用性の高い微生物株を開発。「Kluvy」と名付けられたこの株を利用した最初の製品には、チーズ、低脂肪クリーム、パルメザンチーズパウダーなどがあります。
これらの製品はいずれも、低脂肪であることに加えて、高品質のタンパク質、プレバイオティクス、食物繊維を豊富に含んでいるのが特徴。同社は、より健康的な選択肢を求める市場の需要に、従来品と同等の価格で応えることができるとしています。
GFI APACによると、Changing Bioは消費者へ直接販売する予定はなく、製パン業界で、従来の乳製品を置き換える取り組みを進めているとのことです。
ターゲットとなる巨大市場
非営利団体のFood Innovation Australia(FIAL)の2019年の発表によると、中国のタンパク質消費量は2018年の5,700万トンから2025年には7,000万トンに増加し、世界のタンパク質市場規模の35%を占めるようになると予想されています*1。
昨年3月、中国の習近平国家主席は、食料安全保障を推し進めるべく、植物由来・微生物由来の代替プロテインを支援する旨の通達を出しました。
これを受けて、Changing Bioは今後15年以内に、微生物タンパク質製品が市場シェアの約22%を占め、市場規模は約2,900億ドル(約38兆5,700億円)に達すると予測しています。
昨年、中国のフードテック企業として最大となる2,200万ドル(約29億2,600万円)の資金調達を行ったChanging Bio。同社の取り組みが中国のような巨大消費市場で成功すれば、気候や食料安全保障の問題に対して多大なインパクトを与えることができるかもしれません。
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