豪Magic Valleyが血清を使わない新製法の培養ポークを発表

昨年培養ラム肉を発売したオーストラリアのスタートアップMagic Valleyが、新たに培養ポークを発表
生きている豚から人道的な方法で採取した皮膚細胞を、ウシ胎児血清(FBS)を使わない画期的な新技術(後述)により培養したとのことです。

エシカル&サステナブルなソリューション


この技術を用いれば、たった一度の採取で得られた細胞を無限に培養し、筋肉と脂肪の両方に分化させることが可能に。他の培養肉メーカーの技術をしのぐ安定性と培養スピードが実現でき、豚肉やラム肉に限らず、あらゆる種類の肉にスケール可能だといいます。

Magic Valleyの創業者でありCEOを務めるPaul Bevanは、「増加の一途をたどる世界人口の需要を満たしつつ、倫理的・環境的な理由で従来の食肉消費から離れてネットゼロを達成するには、代替プロテインの確保が喫緊の課題」と述べています。

Magic Valleyがほかの企業と異なる点が、細胞の培地となるウシ胎児血清(FBS)に依存しないこと。培養肉生産において、分裂する細胞の餌となる培地は、通常、血液から作られます。これまで広く使われてきた培地はウシ胎児血清といい、入手するためには殺処分が必要でした。当初は、胎児1頭から採れる高価な血清でたった1kgの肉しか作れないという試算もあり、生産方法の改良が課題となっていました。

Bevanは、「当社の生産プロセスではウシ胎児血清を使用したことがなく、その代替品すら必要としない。完全にアニマルフリーの培地を独自開発し、多くの競合他社とは一線を画している」といいます。

スケールメリットによるコスト低下を目指す


手始めに豚ひき肉からスタートするMagic Valleyの目指すところは、従来の食肉生産における豚の倫理的・人道的な扱いに対する懸念の高まりに対応したソリューションとなること。豚肉は世界中で広く愛されるタンパク源であり、中国を含むアジアの多くの地域において、一人あたりの消費量が最も多い動物肉となっています。

同社初の豚ひき肉製品は、約20%の培養原料を混ぜ入れる製法。この割合は、伝統的なひき肉製品の味や風味、香りを効果的に再現し、消費者に満足のいく食体験を保証するよう、検討を重ねて決定されました。これにより、同社の革新的な細胞培養技術の強みと、生産技術面や消費者の好みとのバランスを取ることができるとしています。

現在、同社の豚ひき肉製品の生産コストは、1kgあたり33ドル(約4,400円)。通常の豚肉の価格と比べると高く感じますが、まだ開発の初期段階にあり、改善の余地も大きいことが強調されています。市場競争力の確保に向けて、将来的には同3.3ドル(約440円)を目標にしているとのこと。同社の培養ポークは、従来の豚肉と全く同じ味を実現できており、規模の拡大とともに価格を下げることができれば、未来の食肉市場において大きなシェアを獲得できると見込んでいます。

規制当局と密な連携を


積極的な資金調達を行っており、次なる成長と発展に向けて300万ドル(約4億200万円)の調達を目指すMagic Valley。この資金をもとに、同社の豚肉・ラム肉製品の規制当局からの認可取得、最初のパイロットプラント建設と生産能力の拡大を進める予定です。

新しい食品技術に対する積極的なアプローチに定評がある、オーストラリアの規制当局FSANZ(Food Standards Australia New Zealand)。「持続可能性、動物福祉、食料安全保障の観点からもたらされ得る利益」について認識し、Magic Valleyのような企業が従うべき、明確かつ包括的な枠組みを確立しています。

また、そのプロセスでは協議が設けられ、オープンで透明性の高いコミュニケーションがなされるようで、Magic Valleyも規制当局と密に連携し、懸念や疑問が生じたときにはミーティングやディスカッションを行い対応したとのこと。

2024年には規制当局からの認可が下りる見込みで、次は培養ビーフの開発に着手する考えです。

オーストラリアにおける細胞農業の広がり


近年、細胞農業関連のスタートアップが増加しているオーストラリア。Magic Valleyの発表に先立って、いくつかの同国企業にも動きが見られました。精密発酵企業のCauldron Fermは、アジア太平洋地域最大の精密発酵施設のネットワーク構築に向けた、1,050万豪ドル(約9億3,800万円)に上る資金調達を発表。

培養肉メーカーのVowは、細胞農業の可能性を示すプロジェクトの一環として、絶滅したマンモスの細胞を使用したミートボールを発表し、世間を驚かせました。

メルボルン大学の名誉研究員であり、Cellular Agriculture Australiaの取締役Bianca Lêは、オーストラリアが気候変動に対して特に脆弱で、食料問題へのソリューションを必要としていることから、培養肉を含むバイオテクノロジーに関する基準を策定するよう呼びかけています*1

「オーストラリアは、70年以上にわたって世界トップ3の牛肉輸出国に名を連ね、バイオテクノロジー界のリーダー的存在でもある。20年前、オーストラリアの同業界はごく小規模のものだったが、今では世界で5本の指に入るほどになっている。私たちがますます不確実な未来に直面している今、気候変動から身を守り、環境破壊を抑えながら食料供給を確保することが、賢い選択だ」

*1 https://www.greenqueen.com.hk/cultivated-meat-australia-food-shortages/

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