GFI Indiaが初の業界レポートを発行、インドのスマートプロテイン市場を概観

代替プロテインのシンクタンクThe Good Food Instituteのインド支部GFI Indiaが、同国初の業界レポート『State of the Industry 2023』を発表しました。今や世界最大の人口を抱えるインドの現状と今後の展望をまとめた同レポートから、市場規模や企業の動向、消費者の受容、法規制に焦点を当てて紹介します。

市場規模では代替乳製品が最大


代替プロテイン(インドではスマートプロテインと呼ばれる様子)の3本柱である植物ベース・細胞(培養)ベース・発酵ベースのいずれかにより肉・シーフード・乳製品・卵の開発に取り組む企業のうち、現在インド国内で確認されているのは113社

世界最大のヴィーガン・ベジタリアン人口と酪農産業を誇る同国では、植物性食品を手掛ける企業が最も多くなっており、その中でも66%が代替乳製品(アーモンドミルクが最多)に、30%が代替卵に注力。市場規模を見ても、代替乳製品は25億ルピー(約45億1,000万円)と、代替肉の10億ルピー(約18億円)を圧倒する規模となっています。

投資の面では、2021〜22年にかけて代替プロテイン分野のスタートアップ企業への総投資額は、1,700万ドル(約25億5,000万円)。2022年にアジア太平洋地域全体で同分野に投資された総額5億6,200万ドル(約844億円)と比べると、ごくわずかな金額にとどまりました。

アジア太平洋地域の代替プロテイン分野に投資を行うBetter Bite VenturesMichal Klarは、「世界トップクラスの人材を有するインドは、代替プロテインのイノベーションと製造のハブとして機能することができる。精密発酵のような技術では特に、生物医学の研究や製造において現在使われている人材や設備から、恩恵を受けることができるだろう」と語っています。

スタートアップから大企業までが参入し、エコシステムを形成


投資額こそそれほど多くないものの、インドの代替プロテイン企業の中には、すでに国際的な地位を築き始めている企業もあります。

精密発酵分野では、バイオテクノロジー企業のLaurus Bioが、アニマルフリーの成長因子や組み換えタンパク質、培地サプリメントを世界中の大手培養肉メーカーに供給。そのほか、乳タンパク質のカゼインを生産するZero Cow Factory、乳タンパク質・乳脂肪を開発するPhyx44が挙げられます。

植物性食品に関していうと、Greenest Foodsは昨年、インド企業で初めて植物性代替肉の輸出品を米国に向けて出荷。Wakao Foodsは、過去最大規模(13トン)のジャックフルーツベース製品を米国に出荷しました。

アジア太平洋地域を牽引するシンガポールへの輸出も多く見られました。Blue Tribe Foodsは、代替肉製品をシンガポールのスーパーマーケットで発売し、Shaka Harryはショッピング複合施設のムスタファセンターに導入予定。Evolved Foodsは、シンガポールとネパールに代替肉を輸出しています。

さらに国際的な展開を進める企業には、Haldiram’s Internationalの「Plant Perfect」シリーズの米国・欧州・オーストラリアでの発売をサポートしたBVeg Foods、アジア・北米・中東・アフリカに続き欧州への進出を検討中のGoodDotなどが挙げられます。

また、オーツミルクを手掛けるOatmlkは、インド北部の地方都市カーンプルに位置する企業でありながら、UAEとシンガポールへ製品を輸出。「地方都市発の新しいブランドは、今後数十年の輸出産業において重要な役割を果たすだろう」とGFI Indiaは述べています。

そのほか、AAKADMなどの原料サプライヤー、Symega Food Ingredientsなどのメーカー、TataITCのような大企業までが独自のスマートプロテイン製品ラインを立ち上げ、バリューチェーンのあらゆる段階で有力企業が参入しています。

消費者の受容は「健康」が主な動機に


世界的な傾向に違わず、インド人の多くは製品表示において「ヴィーガン」よりも「植物由来(plant-based)」という表現を好んでいる様子。同様に、インド人が代替プロテイン製品を選ぶ最大の理由は「健康とされています。

とりわけ代替ミルクでは、「砂糖不使用」や「保存料無添加」といった謳い文句が消費者にから高評価に。興味深いことに、動物虐待に関する主張は、消費者が動物性食品を避けヴィーガン食品を選ぶ大きな動機にはなりませんでした。

インドでヴィーガン食品をいち早く取り入れた消費者のプロファイルは、若年層(25~44歳)、高所得層(世帯月収5万インドルピー=約9万円以上)、高学歴層(大卒以上)、都市部在住者フレキシタリアンとなっています。18~24歳の層は強い関心を示しているものの、価格が割高なため二の足を踏んでいる様子。

リピート購入率も高く、過去6カ月以内に植物性ミルクを購入したインド人の82%が再度購入を検討すると回答しており、代替肉では72%でした。

新規食品規制とラベル表示規制の動向


インドで食品の規制枠組みを管轄するのは、インド食品安全基準局(FSSAI)。代替プロテインの中でも、細胞培養と微生物発酵を用いた食品については「新規食品」に該当するため、規制認可プロセスを経る必要があります。

FSSAIは2020年に専門家で構成されたワーキンググループを結成し、培養肉規制の詳細を検討している様子ですが、これまでに認可申請を行った企業は出ていません。

微生物発酵の分野では、米国のパイオニア企業Perfect Dayが、昨年インドのSterling Biotechを買収した後、精密発酵によるアニマルフリー乳清タンパク質の市販前承認を取得。FSSAIはさらに、英Quornが使用する糸状菌(Fusarium venenatum)由来のマイコプロテインの使用も承認しました。

植物性食品については、各国で話題となっている表示の問題があります。EUと同様、FSSAIは代替乳製品のパッケージに「ミルク」「チーズ」「ヨーグルト」といった用語の使用を禁止しています。

昨年6月、FSSAIは植物性食品のための独立した規制枠組み「Vegan Foods Regulations」を制定。植物性食品メーカーがヴィーガン食品である旨の製品表示を行うためには、この規則を遵守して承認を得なければなりません。

これに関して公開されたFAQでは、「ヴィーガン」という用語を食肉関連用語と併せて製品ラベルに記載することはできず、企業は味や食感などの感覚的な内容について、代替肉を従来の食肉と比較することはできないとしています。

しかしながら、これらの表示規制に関しては関連企業の間でも誤解を招いている部分がある様子で、今後さらなる検討が必要とみられます。

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